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「馬鹿かお前たちは」
が、二代目の一言だった。
全くです、とルイスは正座して縮こまる。
二代目の前に座っているのはルイスだけ。何でだ、とも思ったが、若を見たら納得した。一瞬で目を逸らしてしまったが。
「動いているゴキブリなんかお前に撃てる筈がないだろう」
ルイスは頷いた。二代目の顔が怖くて顔を上げられない。圧力が質量を伴っているようにしか思えなかった。
どちらが悪いかと言えばどっちも悪い。
ただルイスは子供だったから拳骨の威力が半分くらいで済んだ(それでも死ぬ程痛かったが)だけで、もし大人だったら若と同じような憂き目に遭っていたのかと思うと背筋が寒くなった。まだ頭がぐわんぐわんする。
半魔の身でそんな衝撃を味わえるなんて滅多に出来ない経験だぞよかったな、と髭は冗談を言おうとして止めた。若の二の舞になってはたまらない。
その後家の中でフレスベルグの使用を禁止され、大人しく頷いたルイスは晴れて釈放となった。若は今どうなっているか気になるが確かめる勇気はない。取り敢えず生きているのは間違いない筈なのでルイスの中でよしと言う事になった。
「…にしても、さっきのゴキブリどこ行ったんだか」
初代が呟き、ネロもそれが気になっていた所だ。またキッチンに潜り込んだのなら捜索は不可能に近い。
バージルが、ん?と僅かに眉を寄せ振り向く。
ふたりも何だ何だと同じようにすると、
カサカサカサカサ。
「、」
初代とネロは言葉を失い、ルイスは固まった。
ゴキブリがこちらに向かって全速前進して来る、その時。
チチチチッ。
ドタドタと忙しない足音を立てながら、灰色をした何かが目にも止まらぬスピードで横切った。
『それ』はダンテ達から数メートル離れた所でぴたりと動きを止めた。
キーキー子豚のような鳴き声を発する、やたら尾の長い、薄汚れた小動物。
──いわゆる、ドブネズミ。
ドブネズミが、ゴキブリをがっしり口にくわえてそこに居たのだ。
「──────────」
この騒動は、結局夕方まで続いたらしい。
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