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ゴンッ、バンッ、ガシャアァン!
「「「………………」」」
何とも痛そうな効果音の後、事務所に沈黙が落ちた。
若も初代もぴくりとも動かず、ルイスに至っては初代で姿が見えない。
バージルが閻魔刀を手に呆然としており、ネロも固まって動けない。
動いているのは時計の秒針と、転がるバケツと、床に広がる水くらいだ。
「ってえぇ…」
数秒ではあるが恐ろしい沈黙を破ったのは若のうめき声だった。それに呼応するように初代がのろのろ身体を起こす。
「っ初代、はやくどけ…重い!」
「ああ悪り悪り…おーい、ルイス?生きてっかー?」
「うぅ……」
ルイスは若の上で目を回している。大の大人ふたりにサンドされて苦しくない訳がない。
「し、しぬかと…」
「悪い、苦しかったな」
頭を撫で苦笑しながら言う初代。
その横を何食わぬ顔で通過するゴキブリ。
「────、」
よろけつつも慌ててルイスは立ち上がり、ゴキブリはキッチンへと向かう。
「ルイス!撃て!」
「えっ、えぇ!?」
「大丈夫ださっき出来たろ!」
若が無茶を言い、狼狽する間にもゴキブリは遠ざかって行く。ルイスは唸りながらもフレスベルグを取り出しゴキブリに向ける。魔具なのでセーフティは付いていない。
バァン!
「…当たんないよー!」
「あ、やっぱり?」
「やっぱりってなにー!?」
しれっと言ってのける若。ルイスが放った弾丸は床をぶち抜き、ゴキブリはキッチンへと向かう。やはりさっきのは奇跡だったのだ。そう何回もあっては恐ろしい。
そこで部屋から出て来た二代目が深ーい溜め息を吐いた事に気付いたのは、横にいた髭だけだった。
「…Run quickly,there.」
引きつった顔の髭が呟いた一言を、残念ながら皆が聞く事は出来なかった。
普段大人しい人物ほど怒ると恐ろしいものだ。
カツカツと音を鳴らすブーツが一段、二段、階段を降り、やがて一階の床を踏む。二代目の足元で埃がぶわっと舞った。
ガァン!
「──────」
今の音は一体何だったのだろうか、床と仲良くしていたままの初代は瞬時に、さっと顔を床に伏せた。
これが二代目が若に拳骨を落とした音だなんて信じられない信じたくない。声も上げずにどさりと崩れ落ちた若が今どんな状況かなんて見たら心に大なり小なり傷がつく気がする。俺自分の直感は信じるタイプだから。
と、ひとしきり初代が現実逃避する中、二代目の足はキッチンへ向かう。
「ルイス」
ひ、とルイスが固まるのがよく分かった。もうそっちを見ている者はおらず、薄情にもただ明後日の方向を向いて幼い妹の生還を祈るばかりである。
ガツン!
ああよかった、割と手加減したみたいだ。
そう心中で呟いたのは誰だったか、いずれにせよ皆死人のような目をしていたのは確かである。
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