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漆黒の銃身から放たれた弾丸は、鈍く光を照り返す彼奴の中心を過たず貫きその命を散らした──
などと描写してみると何となく格好いいような気がしないでもないが、実際二代目がエボニーでゴキブリを見事撃ち抜いただけである。若とルイスはすごいすごいと大はしゃぎだ。
撃ち抜いただけ、とは言うが、カサカサと尋常でないスピードで動き回るゴキブリを撃ち抜くと言うのは最早神業である。少なくとも若には無理だろう。
「すごい!どうやったの!?」
「どうやったと言われても…」
二代目としては狙いを定めて引き金を引いただけだろうが、まず狙いを定める時点で無理だろ、と髭は思う。
「いやー、びびったー…そう言やぁさ」
若がやれやれと肩を竦め、思い出したように人差し指をぴんと立てた。
「ゴキブリって、一匹見たら三十匹いるって言うよな」
これに目を剥いたのはルイスだ。
「ええぇー!?どこ!?」
「例えば、…排水管の中とか、だな」
二代目が答える。
「はいすいかん?」
「水道の、水が流れてく所とかの事だよ」
ネロが説明し、ルイスは首を傾げた。
「流れてかないの?」
「…ゴキブリ強いからなぁ」
「まあ、何も排水管だけじゃあ無いだろ。そこら辺に卵産んだりするからな」
髭の言葉にルイスはうげぇと嫌そうな顔をした。初代が腕を組む。
「…何でお前ゴキブリはダメでネズミは平気なんだよ?」
「だってゴキブリは虫だもん」
そう言うものだろうか。
だからと言ってネズミを捕まえて来るのはアウトだ。
ちなみにさっきの音は、ゴキブリを発見したルイスが踏み殺そうとした所ゴキブリが加速した為に踏みつけを外した音らしい。
床が若干凹んでいるのを初代は敢えて黙っていた。バレて怒られるのも時間の問題だ。
「しかしまあ、こんな所だしゴキブリも…」
バァン!
──いるよな、と言いかけた髭の言葉は破裂音に遮られた。
「……あの、ルイスさん?」
ルイスの正面に位置する髭の隣にいた若がひきつった顔でルイスに恐る恐る呼びかける。
「………」
髭も一瞬固まるほどの物凄い形相で魔銃フレスベルグを構えるルイスがそこに居た。
髭に向けているように見える銃口は、しかし僅かに逸れている。
皆は髭の後ろを覗き、髭は首を捻り顔を後ろに向ける。
「「「………」」」
言葉を失う一同。
髭のちょっと後ろ、壁際に転がっていたのは、
「…どうやったんだよ、お前」
ゴキブリの死骸だった。
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