4:よろしい、ならば以下略 1
ルイスは生ごみの詰まったゴミ袋を引きずりながら運んでいた。重いからではなく、袋が大きかったためだ。ルイスは悪魔の血のためか兄達同様に力持ちである。それはいいとして、ようやくゴミ置き場にたどり着いた時には袋がすり切れかけていた。まあ中身が出なかったので結果オーライだ。
ゴミ置き場である路地裏は当然であるが、薄暗い。よく晴れた朝だと言うのに、夕立の直前のように暗い。それから、ゴミ置き場であるが故に臭い。ビールに生魚をぶち込み放置したようなひどい臭いだ。そんな事はした事がないが。
ひどい臭いに辟易したような顔で鼻をつまみ、さっさと帰ろうと踵を返した。
その時に、ふと物音が聞こえた。
がさがさ、と袋から音がするのだ。
すっかり臭いよりも好奇心の勝ったルイスは、音を立てないようにしゃがみ、袋の下の方を覗き込んだ。
チチチチッ。
「!」
今まさに袋を食い破ろうとしていた『それ』がルイスを視認し逃走を図る。だがしかし、ルイスが『それ』のしっぽをがしっと掴んだ方が早かった。
キーキー鳴きながらじたじた暴れるが、哀れにも相手が悪すぎる。
「…捕まえちゃった」
子豚にも似た声で鳴く『それ』をまじまじ見て、何を思ったかルイスはそのまま踵を返した。
朝食の片付けも終わり、これから掃除でもしようかとネロと二代目が話している時に、事務所の扉が開いた。
「ただいま!」
「ああルイス、おかえ……」
ネロはルイスを見て、正確にはルイスの右手を見て、固まった。
キーキー子豚のような鳴き声を発する、やたら尾の長い、薄汚れた小動物。
──いわゆる、ドブネズミ。
「…捨てて来いいいいぃぃーーーーーーーっっ!!!!」
ようやく静けさを取り戻したと思った事務所内に、ネロの絶叫が響いた。
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