3

朝の7時20分、未だに降りて来ないルイスに皆が首を傾げる中、初代は顔面が真っ青になるような思いで二階へと続く階段を睨んだ。

「どうしたんだ、ルイスの奴?」

「……」

キッチンへ向かって行った若の横で、穏やかでない面持ちの初代を髭が訝しげな顔で見た。

「初代?」

「……なあ、おっさん」

初代の顔は、心なしか青ざめて見えた。どうした、と返すと、初代は神妙な顔つきで髭を向いた。

「ちょっと、外見てくれないか」





初代は階段を駆け上がり、ルイスの部屋の前に着くとドアをノックした。

「ルイス、朝だぞ」

うんともすんとも返事が来ない。が、微かに物音が聞こえて初代は左手を握ったり開いたりしてから、ドアノブを掴み乱暴に回した。

「ルイス!」

「────、」

部屋に入ると、着替えて帽子も被り、小さな窓枠からまさに身を乗り出そうとしていたルイスの目が初代を捉え驚愕に見開かれた。

「ルイス、どこに行くつもりだ」

「…………」

困ったようなルイスの目が、やがて悲しそうに細められた。

「………あたし、」

蚊の鳴くような声の後、ルイスは窓から飛び出した。
初代は窓に駆け寄り、しかし大の男が通れるような大きさではない。窓の外に向かって声を張り上げた。

「──おっさん!!」

外から、オーケイ!と返事が聞こえ、初代は部屋を出て階段を飛び降りた。




二階の窓から飛び降りたルイスが自分を見つけ目を見開くのを、髭は小さく笑う。
が、直ぐに眉が潜められた。

「…これは…」

空中のルイスのブーツが、白く輝くのを見たためだ。
髭は予定を変え、両腕を顔の前でクロスさせた。ルイスは頭上に迫っている。

「────っ!」

落下する勢いから繰り出された踵落としを受け止め、舌打ちをして髭は走り出した。
右腕が力なく垂れ下がり、しかし三歩走る間に元に戻る。

「ったく…朝メシ前に鬼ごっことはね」

口調とは裏腹に苦々しい顔の髭は、後方に向かって大声を出した。

「しょだーい!逃げられた!!」

後ろの方から怒鳴り声が聞こえる。

「見りゃ分かるっつーの!!俺あっちから行くわ!」

「分かった!」

髭の後ろには分かれ道がある。挟撃するつもりだ。
髭は焦燥を心の奥底に追いやり、速度を上げた。ルイスはもう見えないが、気配を追えば追跡は十分可能である。

さあ、追いかけっこと洒落こむか。

髭は苦笑しながら、スピードを緩める事なく曲がり角を曲がった。

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