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オッドアイを持つ謎の男に言われるがまま、テメンニグルと呼ばれた搭を登るルイスには、家族が居なかった。物心ついた時分より、彼女はひとりだった。
ルイスを拾い養ってくれた人は居る。が、今となっては皆帰らぬ人だ。悪魔に襲われ、死んでいった。
そんな経緯から、彼女は『死神ルイス』と呼ばれ、その一帯からのけ者にされていた。し、ルイスも誰かに近付こうとはしなかった。
全部、自分のせいなんだ。そう思っていた。
『殺セ、裏切リ者ノ、娘!』
『殺セ!』
悪魔のおぞましい声が耳にこびりつき、頭から離れない。
裏切り者の娘って何だ、こっちは親の顔すら知らないのに。
ルイスは言い知れぬ恐怖と、釈然としない苛立ちに足元の石(多分壁が崩れたものの破片だ)を蹴った。
自分のせいで、誰かが傷つき死ぬのは嫌だった。こんななら、死んだ方が良いと思って心臓をそこら辺のナイフで突き刺した事があった。死ぬ程痛かったが死ねなかった。次の日には傷口がほとんど消えていて、自分が人間じゃない事に気付いたのはその時だった。
身体能力は人並み外れて、と言うかむしろ人間離れしていた。
拳銃の扱いはなんとなくですぐに覚えたし、体術は自己流もいい所だが、そこら辺のゴロツキを叩きのめすには十分だ。
齢9、10の少女がそんな物騒な技術ばかり体得しているのも、周りから敬遠される原因のひとつだった。
そして、髪もまた然り。
耳の後ろでツインテールに縛った長い髪は、見事な銀髪。
デニム生地のキャスケット帽、フード付きの白いシャツワンピースにショート丈のカーゴパンツ、そして裾がぼろけた黒いコートといった出で立ちは、闇夜の中ではあまり目立たない。が、月明かりを照り返す銀色はあまりにも人目を引いた。銀髪は珍しいのである。
ルイスの足取りは限りなく重い。
脚には、今まで履いていた薄汚れた茶色いショートブーツではなく、銀色に輝く膝下までの見事なブーツ。
左手には、黒銀の拳銃。
それぞれ名をフェンリル、フレスベルグと言い、つい先刻までルイスに襲い掛かっていた狼と鷲の悪魔である。
二匹同時に襲い掛かって来た。
勿論死にかけた。
その時、薄れる意識の向こうに、ぼやけて銃が見えた。恐らくあれは銃で間違いない筈だ。
ルイスは無我夢中で手を伸ばした。手持ちの拾った密造銃はトリガーがイカれてしまっていて、もう駄目だ。
とにかく、何か武器が無いと。
そう思って、必死に手を伸ばして、引き金を引いた。
──そこからどうなったかは、正直よく覚えていない。
ただ、悪魔が二匹とも倒れていて、震えながら魔具に姿を変えたのは記憶に新しい。
それにしても、身体が重い。歩きたくない。
ルイスはずるずるとその場に座り込んだ。
「…こんな所で何してんだ、おチビちゃん?」
ルイスは思わず悲鳴を上げた。
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