3:キミの居場所 1
ルイスには、物心ついた時分より時折見る夢がある。
いわゆる悪夢だ。
燃え盛る半壊の家の中で、ぴくりとも動かない金髪の女性を、自分にどこか似ている銀髪の少年が、泣き叫びながら必死に揺さぶっているのだ。
──母さん、ねえ母さん、起きてよ!
そう叫びながら。
暫くすると、部屋は真っ暗になり、女性と少年はいつの間にか消える。自分だけがそこに取り残され、どこからともなく声が聞こえるのだ。
『殺………セ…』
『裏切リ…者……』
おぞましい声が四方八方からひっきりなしに聞こえ、耳を塞ごうにも身体と言う概念が失われてしまっている。
まさに悪魔のと言ったそれは次第に、聞き覚えのあるものに変わって行く。
──近づくな、…だからこんな奴拾うもんじゃないって言ったんだ!
「──この、死神が!」
「────…っ!?」
ルイスはがばりと飛び起きた。
心臓がばくばく煩い。冷や汗と震えが止まらない。
見開かれた瞳から、涙が零れた。
「………………」
布団を握りしめ、視線をきょろきょろとさ迷わせる。
「(また…あの夢、)」
デビルメイクライに来てから、一度も見なかったと言うのに。
ルイスは顔をくしゃりと歪めた。あの夢の、正確に言えば最初の部分の真相を知ってしまったのだ。
あの少年は幼き日の兄、ダンテであり、事切れていた女性はエヴァ──母親だと言う事を。
記憶にない母親の最期を、何度も夢に見るのだと言う事を。
しかし今日の夢は、少し違っていた。それが何よりショックだった。
夢の中の声──あれが、ダンテや、バージルや、ネロのものになっていたのだ。
ルイスは真っ青な顔で、泣いた。
いつもは、近所のおばさんや、ゴロツキやらの声なのに。
どうして今になって、こんな夢を見たのだろう。
恐い。拒絶されるのが、堪らなく恐い。
──ひとりのままだったら、こんな事、思わなかったのに。
ルイスは膝を抱え、顔を埋めて泣いた。午前2時16分。真っ暗な窓の外で、野良猫が低く唸った。
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