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正午12時3分。
デビルメイクライの扉を開け帰って来たのはルイスとネロだった。こちらも帰る時間がかぶったようだ。ふたりとも紙袋を抱えている。今日の昼食から3食分くらいの食材を買って来たのだろうか。
「お帰り」
「ただいま!」
「ただいま。…何か、大したこと無かったよ。今回」
随分早いな、と言う視線を二代目が寄越すと、ネロはやれやれと言った風に答えた。
スケアクロウが2、3体だけだったらしく、むしろ移動に時間がかかったとか。
キッチンにふたりで入り、荷物を置いたルイスが出て来た。入れ替わるように二代目がキッチンへ。そこへ初代が帰って来た。
「ただいまー」
「お帰り」
「おかえり!」
初代に言いながら帽子を取るルイスに、ソファーに座った双子が手招きをする。
「ルイス」
「ちょーっとおいで」
「?」
くりくりした目をぱちぱち、少し首を傾げつつルイスはふたりに近寄る。キッチンからは紙袋をがさごそする音と、まな板と包丁を準備するような音がする。
自分たちの間にルイスを座らせ、A4サイズのコピー用紙をローテーブルに置き、鉛筆を差し出した。息ぴったりである。
ルイスは、ぅげ、と言う顔をした。
「…あのぅ。これ…」
「…アルファベット」
「書いてみ?」
若が優しく、しかし無理矢理鉛筆を握らせた。
蛇に睨まれたカエル──いや睨まれてない、むしろ穏やかな表情を向けられているのだが、まさにそんな感じだ。逃げられない、最強のデビルハンター恐るべし。
なんだなんだと興味あり気に近寄って来た初代も全く助けてくれる様子がない。万事休す。
「………」
おそるおそる鉛筆を握る。そのまま書こうとした時、
「待て」
「はいっ!?」
左隣のバージルが手を伸ばし、上からルイスの手を握る。
「いいか、鉛筆はこう持つ」
小さな手を開かせ、きちんと鉛筆を持たせる。
書くよう促すと、ルイスは不器用な手つきで、相変わらずミミズが運動会でも開いたような字を綴る。
「ほら、それじゃCかOか分かんないぜ?もっと離して」
「う、うん」
もう一度、Cを書き直す。
上手く書けた、と思ったその時、若がわしわし頭を撫でた。
「OK!じゃあ次な」
ルイスがDを書き始め、ローテーブルの向こうから紙を覗き込んでいた初代は頑張れよと頭をぽんぽん叩いて事務所机に座った。本来の主である髭はまだ帰って来ていない。
ところどころでストップを掛けられ、叱られたり誉められたりしながらアルファベットを書ききる頃にはネロと二代目が昼食を作り終えていた。
「メシ出来たぞー」
「ういーっす」
「ああ」
「へーい」
若、バージルがソファーから立ち上がり、初代は事務所机で何やら銃を組み立てていたらしく手を洗いにキッチンへ消えた。
ルイスは鉛筆をテーブルに置き、右手をぶらぶらさせた。慣れない事をしたので手が痛い。
「良く頑張った」
バージルが頭にぽんと手を乗せ、料理を出すのにキッチンへ入って行った。
ルイスは面喰らったが、すぐにえへへと破顔した。
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