3

これはひどい。

若は唸りながらメモ用紙を見つめた。何の暗号だこれは、と頭が混乱する。まず字が汚なすぎる。

Ill go auto.

『病気は勝手に進行する』と言った感じの意味で取れなくも──いや取れない。そもそも何故そんな事を書くのか意味不明である。
しばらく考えていると、ふとある事を閃いた。

「…ん?あ、……なるほど」

同居人が全員も家にいない。
ルイスが特別外に用があるとも思えない。なら、最後まで残っていたのはルイスだ。
それが家にいない、つまり外へ出て行った、つまり、


「"I'll go out.(出掛けて来ます)" か…」


一気に脱力した。
そして首を傾げた。

──ルイスは、字が書けなかったのか。

少しショックだった。多分このボールペンだって、使い方が分からず壊してしまったんだろう。
そうだ、そう言えば、ナイフとフォークの持ち方すら知らなかったじゃないか。

ルイスは何も知らない。
普通の子が知らなくても良い事を知っていて、普通の子が普通に知っている事を知らない。
若はメモ用紙をぼんやり眺め、ドアの開く音に振り返った。

「ただいま、…ああ若、おはよう」

「二代目!おはよう」

二代目だ。その後ろにバージルが現れた。帰る時間が被ったらしい。

「やっと起きたか、愚弟が」

「ああ、おはよ…なあ、ふたりとも」

「ん?」

若はメモ用紙をふたりに差し出した。

「これは…ルイスか?」

二代目がメモ用紙を受け取り、バージルもそれを覗き込み、

眉間にシワが寄った。

「…何だこれは」

「…予想外にひどいな」

ふたりともルイスの書く内容は知っていたので、すぐに何を間違ったのかは把握できた。
が、やはりこれだけ酷いのは予想外らしく難しい顔をしている。

「なあ、ルイスさ、…これじゃダメだよな」

若が言うと、バージルがふんと息を吐いた。


「当たり前だろう」

二代目も、小さく頷いた。

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