Prologue 1

不思議な事、と言うのはやはり起こり得るものなのだ。と、ネロはつくづく実感する。

この広くも狭くもない、週休六日制の事務所に四人の『ダンテ』と、その兄バージルが一同に介していると言う奇妙な状況にも最早慣れてしまい、今更何とも思わない。そもそもダンテと言う男が不思議なのだ。

──ただ、もうひとり増えるなどと言う事態は流石に想定していなかったが。




「…ん?」

「どうした?ネロ」

キッチンにて夕食後の洗い物をしていたネロの手が、最後一枚の皿の泡を流している所で止まる。それを見た、コーヒーを飲んだマグカップを置きに来た初代が首を傾げた。ネロは嫌そうな顔で、それでもマグカップを受け取る。

「おい、もうちょっと早く持って来いよな」

「悪り悪り。…それはともかく、どうしたんだ?」

こいつ話逸らしやがった、と思いつつ皿を水切り棚に置き、再びスポンジを手に取る。

「いや…右腕が、落ち着かないって言うか、ざわざわする」

「そういや、何か光ってんなぁ」

スポンジを握る悪魔の右腕は、僅かに発光している。
が、かなり弱々しい、今にも消えそうな光だ。

「悪魔か?…死にかけっぽいけど」

「うーん…死にかけなら、見に行かなくても良いかなぁ…」

などと、言ったその時だ。


ざわり。


身の毛も弥立つ──まさにそんな感覚。
空間がねじ曲げられ、無理矢理その口を開かされる。
以前にも体験したその感覚に、ネロはまさか、と冷や汗が背中を伝うのを感じた。

事務所の方から、若の狼狽えたような声が聞こえる。
ネロと初代は互いに顔を見合せた。

「まさか、また、」


どさっ。


一瞬の静寂。
バージルの呆然と呟くような小さな声が、いやに響いた。

「ルイス…?」

薄い唇から漏れたその名前に、ダンテ達はいよいよ目を見開いた。

ルイス。
テメンニグルで命を落とした、ダンテとバージルの妹である。

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