6

シャワールームから出てきたルイスは、身体は拭いたが髪の毛はびしょびしょだった。

「あー、髪拭け!ほら!」

ネロがタオルを被せてわっしゃわっしゃと拭く。うわあとルイスが間抜けな悲鳴を上げる。

「ネロ!卵、卵!」

焦げた臭いに初代が慌てて声をかける。フライパンがジュワーと音を立てるが、初代はコーヒーを淹れている最中だ。

「うわっ、やべ、」

「坊や、パス」

ルイスの後ろから髭が現れ、ネロがタオルとルイスをパス。髭ががしがし拭く。

「いたたたた!ダンテ、いたい」

「ちゃんと拭かないと風邪引いちまうぜ?」

「ここでやるな、向こうへ行け」

バージルがしっしっと手で追い払い、髭とルイスは事務所へ移動。ルイスは髪が長いので、水滴がぼたぼた垂れるのだ。余談だが、キッチンとバスルームは隣接している。
タオルを頭に乗せたまま、ルイスはふと事務所机に目を向けた。

「?」

「ん?どうし…あ」

髭はダイニングテーブルを見て、はっとする。

「お前の分の椅子がねぇな、探して来る」

ちゃんと拭いとけよ、とタオルの上から頭をぐしゃぐしゃに撫で、髭は物置へ向かった。入れ替わるように初代がキッチンからコーヒーをトレイに持って出てくる。
ルイスは髪の毛を拭きながら、コーヒーをテーブルに置く初代に声をかけた。

「ねぇダンテ、」

「ん?ああ、俺か…どうした?」

ルイスは事務所机の上、小さな写真立てを指差す。

「この人、だれ?」

初代はルイスの頭にポンと手を置き、小さく笑った。

「この人、綺麗だろ?」

「うん!すっごく!」

ははっ、と笑って頭を撫で、写真立てを手に取りルイスの手元に持って来てやる。

「エヴァって言うんだ」

「エヴァ、さん?」

「そう…お前の、母さんだよ」

ルイスは目を丸くした。

「あたしの、母さん」

写真立てを手に取り、まじまじと見つめる。
物置から、今置いてあるのと同じ椅子を持って髭が出てきた。

「ん?…ああ、母さんか」

「そ。…見た事、無いんだよな」

ルイスはこくんと頷き、ぱっと顔を上げた。

「ねえ、あたしも大きくなったら、母さんみたいにきれいになれる?」

無邪気な笑顔に、ふたりは答えた。

「勿論!将来は世界一の美人だな」

「ははっ、こりゃ楽しみだ」

その様子をキッチンから見ていたバージルは、小さく、本当に小さく、笑った。



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