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シャワールームから出てきたルイスは、身体は拭いたが髪の毛はびしょびしょだった。
「あー、髪拭け!ほら!」
ネロがタオルを被せてわっしゃわっしゃと拭く。うわあとルイスが間抜けな悲鳴を上げる。
「ネロ!卵、卵!」
焦げた臭いに初代が慌てて声をかける。フライパンがジュワーと音を立てるが、初代はコーヒーを淹れている最中だ。
「うわっ、やべ、」
「坊や、パス」
ルイスの後ろから髭が現れ、ネロがタオルとルイスをパス。髭ががしがし拭く。
「いたたたた!ダンテ、いたい」
「ちゃんと拭かないと風邪引いちまうぜ?」
「ここでやるな、向こうへ行け」
バージルがしっしっと手で追い払い、髭とルイスは事務所へ移動。ルイスは髪が長いので、水滴がぼたぼた垂れるのだ。余談だが、キッチンとバスルームは隣接している。
タオルを頭に乗せたまま、ルイスはふと事務所机に目を向けた。
「?」
「ん?どうし…あ」
髭はダイニングテーブルを見て、はっとする。
「お前の分の椅子がねぇな、探して来る」
ちゃんと拭いとけよ、とタオルの上から頭をぐしゃぐしゃに撫で、髭は物置へ向かった。入れ替わるように初代がキッチンからコーヒーをトレイに持って出てくる。
ルイスは髪の毛を拭きながら、コーヒーをテーブルに置く初代に声をかけた。
「ねぇダンテ、」
「ん?ああ、俺か…どうした?」
ルイスは事務所机の上、小さな写真立てを指差す。
「この人、だれ?」
初代はルイスの頭にポンと手を置き、小さく笑った。
「この人、綺麗だろ?」
「うん!すっごく!」
ははっ、と笑って頭を撫で、写真立てを手に取りルイスの手元に持って来てやる。
「エヴァって言うんだ」
「エヴァ、さん?」
「そう…お前の、母さんだよ」
ルイスは目を丸くした。
「あたしの、母さん」
写真立てを手に取り、まじまじと見つめる。
物置から、今置いてあるのと同じ椅子を持って髭が出てきた。
「ん?…ああ、母さんか」
「そ。…見た事、無いんだよな」
ルイスはこくんと頷き、ぱっと顔を上げた。
「ねえ、あたしも大きくなったら、母さんみたいにきれいになれる?」
無邪気な笑顔に、ふたりは答えた。
「勿論!将来は世界一の美人だな」
「ははっ、こりゃ楽しみだ」
その様子をキッチンから見ていたバージルは、小さく、本当に小さく、笑った。
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