4
ルイスははたと目を覚ました。壁掛け時計を見ると、朝の6時。
いつも何時に起きているのかはいまいち分からないが、こんなに早くはないと思う。一日分程寝たから目が覚めてしまったのだろう。
ベッドから上体を起こし、ぐぐっと体を伸ばす。
「(ベッドで寝たの、ひさしぶりだなぁ)」
いつもいわゆる路上生活だったので、不思議な気分だ。
部屋を見回してみると、ベッドサイドのテーブルにキャスケット帽と拳銃型の魔具、フレスベルグが置いてある。服は見当たらない。が、多分あのワンピースは着れないだろう。
「ぉわっ、」
ベッドから降りると、冷たいものが素足に当たった。びっくりした。
銀色のブーツ、フェンリルだった。
とりあえずそれを履く。素足にはちょっと辛いが、裸足で歩き回る訳にも行かない。
フェンリルは、魔力を流し込まない限り魔具としては機能しない。そうでないと、常時身に着けているものなのでぶっちゃければ疲れるのだ。フレスベルグはそうでもないが。
そこで、ふとルイスは考えた。
この部屋は明らかに誰かが使っている様子である。が、昨日は全員出て行った。今この部屋にはルイスひとり。
──じゃあ、この部屋の持ち主はどこに?
「!」
ルイスは慌てて、しかし物音を立てないように部屋を出た。
廊下には下へ降りる階段がある。駆け降りると、フェンリルがコツコツ音を立てる。真ん中には大きなダイニングテーブル、そして端の方にソファーが見えた。黒い革の大きなソファーから、脚がはみ出ている。
「…ん?」
「あっ、」
ルイスが近づくとその人物──一番落ち着いた雰囲気のダンテが、身体を起こした。
「早いな、目が覚めたのか?」
間違いない、このダンテがあの部屋の持ち主だ。とルイスは確信した。
「う、うん。…あの、ごめん」
「?」
ダンテは不思議そうな顔をする。
「ベッド…寝れなかった」
「そうなのか?」
「んん、ダンテが」
そう言うと、優しく笑って頭を撫でられた。
「いい、気にするな。…それより、シャワーでも浴びて来たらどうだ?さっぱりするぞ」
「え?んっと、…」
何となく躊躇いの気持ちが生まれ、言葉を濁していると、階段がギシギシ音を立てた。
「ふあぁ、…」
「ああ、ネロ。おはよう」
「ん、おはよ…」
掠れた声で答えたネロは、髪をがしがししながら階段を降りる。黒いタンクトップにジーパン姿のネロに、ルイスは一瞬目を見開いた。と同時に、だからか、と昨晩の彼の様子に合点がいった。
右腕が、どう見ても人間のではない。
「…おはよう、」
「ん?…あ、おはよう…」
ネロはルイスを見た瞬間、しまった、と言う顔をした。しかしルイスは何事もなかったかのように、
「あのね、シャワー使っていい?」
「あ…、ああ。いいよ、そこだから」
左手で指を差す。右腕は体の後ろに隠してしまった。ルイスは極力そっちを見ないように、ネロが言った方向へ足を向ける。
「ネロ、使い方を教えてやってくれ」
「え、でも、」
二代目ダンテは、小さく笑った。
「今分かった。ルイスはいい子だから、大丈夫だ」
それに、と続ける。
「悪魔だらけの搭をひとりで登ったんだ、悪魔の右腕だって怖くないさ」
その言葉に、ようやくネロが笑った。
「──あんたらの妹だしな」
踵を返し、バスルームへ向かうネロの後ろ姿に、二代目はそっと安堵した。
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