「(…あめ玉だ…)」

手のひらの上にちょこんと鎮座する、透明なセロファンにくるまったそれを見て至極分かりきった事を敢えて思ってみるのは、それだけ動揺していたのだ。

バクラにいきなり謝られて何故か飴をもらった。
訳が分からない。

他人に対してあんなに高圧的で、誰に対しても基本喧嘩腰なバクラが、だ。僅か1日で謝罪して来たのだ。

「(もしかして、獏良君が言ったから、とか?)」

だとしたらどれだけ獏良は強いのか。人は見かけによらないものである。
やや暫く飴を見つめ、それからセロファンを解いて、淡いピンク色のそれを口に入れた。

「…いちごだ」

あの怖いバクラと、じんわり甘いあめ玉が妙に頭の中でミスマッチだった。





「祈!」

「あっ、杏子ちゃん!」

中庭の帰り、廊下で手を振る杏子に祈はてててと駆け寄る。

「どこか行ってたの?」

「あ、うん、ちょっと」

なんだか上手く説明する自信もなくて適当に誤魔化すと、杏子はそう、とそれ以上は言及して来なかった。

「それより祈、来週の調理実習、祈のクラスも一緒よね?」

「うん!クッキーだよね?」

「そうそう!祈、誰かにあげるの?」

「え?」

ぱっ、と何故か頭に思い浮かんだのは、白く長い髪の後ろ姿。

「(…あれ?)」

違う違う、と考えを振り払った。さっき飴をもらったのが衝撃的だったからだろう。

「祈?」

「あ、うんとね、ナム君とマリク君とかかな。杏子ちゃんは?」

「私はそうねぇ、遊戯とアテムとー、あと城之内と本田にもやるか!」

祈もあげたげなよ、と言われて頷く。杏子にもあげる事を約束して、7人分かぁと頭の中で算段する。

「あ…獏良君、どうしよう」

「あー、獏良君ねぇ。いっぱいもらうんだろうけど…」

なにぶん彼は女子からの人気が凄まじい為、大量のクッキーを貰うだろう。
結局、一応作っておいて、渡せたら渡すと言う結論に達した。

「(バクラさんは…)」

クッキーとか、食べるのかな。

「!」

何気なく思った事を思わず口にしてしまいそうになって、慌てて口を閉じた。

「…祈?」

「へっ、あ、ううん何でも」

「嘘つき、今なんか言いかけたでしょ」

ちょん、と鼻を人差し指でつつかれて、ぐっと言葉に詰まる。

「え、えーと…」

後ろ手をもじもじさせて口ごもる祈を、杏子はじっと待っている。

「あの…昼休み、いい?」

杏子はにっこり笑って、頷いた。


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