「おぉい藤宮ぁ」
「うん?」
名前を呼ばれて振り向くと、派手に逆立った薄い金髪と、どこか眠たげに半分だけ開いたアメジストの瞳が目についた。
「マリク君、おはよう。どうしたの?」
「おうおはよう…数学の宿題、みしぇてくれないかねぇ」
辟易したように祈にそう言うのは、去年エジプトから日本に来たのだと言うマリク・イシュタールだ。流暢に日本語を操るが、相変わらずサ行の発音は上手くいかないようである。
「うん、」
「こら藤宮、あんまりマリクを甘やかさないでくれ」
いいよ、と言おうとしたところで頭にぽすんと大きな手が乗った。と、同時に祈の頭上から降って来た声にマリクがしょんぼりとした。
「あ、ナム君。おはよう…」
「うん、おはよう。マリク、自分でやらなきゃ意味ないだろ?」
「だってよぉ兄上しゃま、オレ15分はちゃんと考えたじぇ、でも分からなかったから仕方ないねぇ…」
「全く…」
呆れたようにため息を吐く彼は、ナム・イシュタール。マリクの双子の兄である。
二人とも、きっかけなどと言う些細なものは忘れてしまったが、祈に何かと構って世話を焼いてくれるので、祈もよくなついている。
「祈!」
すると、またもや背後から声をかけられ振り向く。この双子も派手だが、それを上回り更に派手な人物がやって来た。
「アテム君、おはよう」
「ああ、おはよう!済まない祈、頼みがあるんだ!」
まるで紅葉のような奇抜な髪型に腕に巻かれたシルバーアクセサリー、着崩れた制服。これだけ見るとまるで不良だが、双子と同じくエジプトから来た彼、アテムは正義感が強く、むしろ不良を注意する側にある。だが服装をどうにかする気はないらしい、案外無茶苦茶だ。ただ単にこだわりなのだろうが。
「お前も数学の宿題か、アテム?」
「何っ!?ナム、お前エスパーなのか!?」
「大体予想はできるよ」
「おぉ、姉上しゃまみたいだじぇ兄上しゃまぁ」
「この光景も全て読んでいました、ってか?違うって」
ナム達には姉がいて、彼女は軽くエスパーじみているのだがその話は割愛する。
「いや、それよりナムの言う通りなんだ!宿題見せてくれ、今日当てられるんだ!シルバー1つ譲るから!」
「え、いや、シルバーはいらないかな…」
「なんでだ!?祈ももっと腕にシルバー巻くとかさ!」
「えぇー…」
ただ単にシルバーを布教したいだけのようだ。
しかし、と祈は困った。
今日当てられるのに、宿題が終わっていないのは可哀想だ(アテムの話だと、半分は解いたがあとは分からなかったらしい)。しかしアテムに見せればマリクに対し不公平だろう。しかしマリクに見せればナムに怒られる。
「…ナム君に聞いて?」
「えっ」
「ナム頼む!」
「兄上しゃまぁ、ついでにオレにも」
「ちょ、…藤宮ー…」
へへ、といたずらっ子のように笑う祈に、ナムはやられた、とため息を吐いた。
そんな、なんでもないような、いつも通りの一日のはじまり。
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