土曜日、午前10時




「おい…さっきから何してんだ、見てらんねぇな」

最初は怖くて悪くて、とんでもない奴だって思ってた。





「兄サマ兄サマ!」

「ん?なんだ、モクバ」

「オレ、今日ばくらと遊んで来るぜぃ!」

「そうか。あまり遅くなるなよ」

「はーい!」

オレはこんな時、バクラと獏良の名前…呼び方?が一緒で良かったって思う。
だって、獏良じゃなくてバクラの所に行くなんて言ったら、兄サマ絶対反対するから。
なんだか兄サマを騙してるみたいでちょっとザイアクカン感じるけど、でもオレ嘘なんか吐いてないぜぃ!

「行って来ます!」

肩から提げた鞄には財布と、それから大事なものが入ってる。
オレはすれ違った磯野にも挨拶してKCを飛び出した。
なんだかご機嫌ですね、なんて言われたから、バクラと遊ぶんだって言ったら、それは良かったですね、って。サングラスの下で磯野がニコッてしたのが分かった。
ごめんよ磯野。お前の想像してるばくらじゃないんだぜぃ。…言わないけど。

別に遅刻しそうでもないから急ぐ必要なんてないけど、でも自然と駆け足になる。
オレが早めに来たって、バクラはそこにいるんだ。よォ、随分早ぇじゃねえの。なんて言って。
なんだか嬉しくて、オレは早く着かないかなあなんて思いながら道をとうとう走る。もちろん、送迎なんて頼めない。

最後の横断歩道を走り抜けて、角を曲がった所のおもちゃ屋。
ほらやっぱり、店の壁に寄りかかっていた。

「バクラ!」

「あ?…来たか。なぁんだぁ?走って来たのかよ」

息を切らしたオレを見て、腕時計を確認すると少し呆れたように言うバクラ。

「へへ…早く来たかったんだぜィ」

「はっ、そうかよ。…おら、やるから飲みな」

ぽい、と放られたのは小さいペットボトルのオレンジジュース。オレがこないだおいしいって言ったやつだ!

「わ、いいの!?ありがとバクラ!」

「へーへー、どういたしまして」

ぷしゅ、と音をたててフタが開く。わざわざ覚えてて買っといてくれたのかな、もしそうなら嬉しいぜぃ。
…まあ、聞いてもたまたまだとか何とか言ってごまかされちゃうだろうから聞かないけど。永遠のナゾになっちまったぜぃ。まあいいや。

オレがオレンジジュースを半分くらい飲んでペットボトルを鞄にしまうと、バクラは行くぞ、って店の中に入って行った。


そうだ、バクラとこうやって遊ぶようになったのって、ここで会ってからなんだよな。
オレ、兄サマ達みたいにデュエルやってみたくて。
兄サマに頼めば少しくらいカードをくれるんじゃないかとは思ったけど、でもそうじゃなくて、ちゃんと自分で集めて、それでデッキを作りたかったから、自分でおもちゃ屋に来た。
オレって一応副社長だからおこづかいいっぱいあるんじゃないかってよく思われるんだけど、実際はそうでもないぜぃ。一ヶ月で五百円だ。会社の金を好きに使うのはよくないしな。え、兄サマ?…稼いでるのは兄サマだし、兄サマはもう義務教育終わってるからいいんだよ!

で、五百円だとパックが三つ買えるけど、逆に言うと三つしか買えないんだ、だから慎重に選びたいんだけど、その日買いたいと思ったパックがすごい上の方にあって、脚立に登ってもなかなか届かなくて…。兄サマみたいに背が高かったらなあ…。
それでオレが脚立をぐらぐらさせながら背伸びしてたら、後ろから声をかけて来たのがバクラだったんだ。

最初は怖かったから固まっちゃってなんにも言えなかったんだけど、そしたらイライラした風にオラどけ!って怒鳴ってオレの代わりにパックを取ってくれた。すっごく意外だった。

それから帰ろうとしたバクラに頑張って言ったんだ。デュエルモンスターズ教えて、って。
バクラはちょっと目を見開いて(普段目付き悪いからよく分かんなかったけど、バクラってかっこいい顔してた)、お前の兄ちゃんに教わんなくていいのかよ、って言ったけど、兄サマは忙しいからって答えたら、妙な間を空けてからいいぜって返事してくれた。
それから、バクラとは割とここで遊ぶようになった。

「しかし、…いいのかよ副社長さんよォ」

バクラがからかうような顔と声でこっちを振り向いた。もちろんその言葉の意味なんてわかってる。

「もちろん仕事してるに決まってんだろ!ただ、最近は安定してるから、……」

…安定してても兄サマは仕事してるんだけどな。
オレが思わず下を向くと、頭に手が乗っけられた。細い指が髪の間をすべるのが気持ちいい。

「ったく、冗談だっつーの。…テメーまで根詰めて働いてるより、こうやって遊んでる方が社長も嬉しいんじゃねェの」

「……?そんな事ないと思うぜぃ…」

オレが顔を上げて首を傾げたら、バクラはため息を吐いて、分かってやれよ、と呟いた。
兄サマばっかり働いてて申し訳ないんだけどなぁ…。

「…まあ、別に何でもいいけどよ。で、今日は何買うんだ」

「あ、えーと、ミラーフォースが欲しいぜぃ!」

「あぁ?あれか…レアだぜ、出なくても泣くなよ?」

「誰が泣くか!」

そんな事を言いながら、意地悪な笑みを浮かべるバクラと店の中を歩く。
…なんか、不思議だぜぃ。
兄サマが見たら怒るかな。遊戯達ならどうだろう。びっくりはするだろうな。

デュエルモンスターズのルールは、前に兄サマがちょっと教えてくれたけど、細かい分かんなかった所とかはバクラが教えてくれた。
デッキはテメーの好きなように作りなって言われたけど、少しは見てくれるし。
バクラって、なんか、…恐いんだか優しいんだかよく分かんないぜぃ。

「バクラ、あれ取って、あの青っぽい袋のやつ」

「んぁ?あれか?…おらよ」

バクラは背が高い。兄サマほどじゃないけど、でもオレから見たらすんごいでかい。高い所のパックだって簡単に取っちゃうんだ。

「ありがと!あとはー…ねえ、これは?」

「あん?ああ…これ確かミラーフォースねぇぞ」

「え、そうだったっけ…じゃあこっち」

「おいおい、自分トコの売りもんだろーがよ」

意地悪言うバクラは無視してパックを三つ、四百五十円分を持ってレジに行く。バクラはパック売り場で棚を見てた。

「バクラ、バクラは買わないの?」

「あ?あー、俺様はいんだよ」

「お金ないのか?」

「んな訳……テメーには関係ねーだろが!」

あ、お金ないのか…。
バクラって、やっぱり獏良からおこづかいとかもらってるのかな…?なんか笑えるぜぃ。

「行くぞモクバ、開けんだろ」

「あ、うん!」

このおもちゃ屋にはテーブルとイスのあるスペースがあって、カードゲームのちっちゃな大会なんかがたまに開かれてたりする。
バクラがどかりとイスに座ると、一角を占領してた不良達が視線を向けて来た。けど、

「あぁ?」

バクラが睨んだらそそくさと帰って行った。さすが。今すんごい怖かった。
そしたら、座れないでいた子どもたちがテーブルに集まって来た。オレがバクラの向かいに座ってるからだと思う。

「なにかなー、なにかな!」

パックの袋を破いて中身を出す。バクラは頬杖をついてこっちを見てる。

「あ、なんだろこのカード。…ないとおぶほわいとどらごん…」

「あ?あぁ…白竜の聖騎士な」

「うわあー!カッコいい!ブルーアイズみたい!わあぁ…!」

「へっ、随分気に入ったみてえだな」

「うん!」

オレは白竜の聖騎士のカードをじっと見つめる。カッコいいなぁ、あ、ブルーアイズを特殊召喚できるのかぁ。

「そいつぁ、儀式モンスターだからな、儀式魔法がいるぜ。確か俺様持ってたからやろうか?」

「へ、いいの?」

「おうよ、くれてやるぜ」

また今度な、ってバクラは笑った。バクラの笑った顔って、あんまり見ないけど、なんだか、いつもよりずっと優しそうだ。獏良に似てるからかも。

「…あ!ミラーフォースだ!」

「お、良かったじゃねェか」

「えへへ…バクラ、ありがと!」

「あ?」

なんで俺様だよ、目がそう言ってる。オレはニカッと笑った。

「これ、バクラが取ってくれたパックだから!」

へっ、とバクラは笑った。

「あー、そーかよ」

「うん!」

オレは鞄からオレンジジュースの残りを出して飲んだ。
バクラは、これは甘すぎるからあんまり好きじゃないって言ってたけど、オレの口の中はその甘い味でふわふわした心地になった。



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バクラとモクバが好きです。
このシリーズまた書きたい!^^




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