(20120616)
ネロの笑顔は、それはもう貴重なものだった。
ネロはどちらかと言えば不機嫌な事が多くて、兄さんも私も、そんなに頻繁に見られるものじゃなかった。他人ともなると尚更。
だから、ネロの笑顔を見ると堪らなく幸せだった。みっともない独占欲がみるみる満たされてゆくのを感じた。
それは、これからもずっと、変わらないと思っていた。
いつしか、ネロの笑顔を独占するのは私ではなくなっていた。
赤いコートの彼。
いつの間にか、ネロの笑顔だけじゃなくて、その隣までも独り占めしてしまっていたのね。
「俺、ダンテの所に行くんだ」
デビルハンターの修行だって言うけど、建前だなんて分かるわ。何年あなたの側にいたと思っているのかしら。
ネロが私に嘘を吐いたのと、ダンテさんに取られてしまったのとが悔しくて、私はネロを呼び止めた。
「ネロ、待って」
振り向いたネロの唇に、私の唇をくっつけて。
必死なそれはファーストキスにしては随分ロマンチックとは程遠いものだったけど。
私にだってこの位の権利はある筈よ?
真っ赤になったネロを後ろに向かせて、強引に背中を押した。
さよなら。
(DN←K)