おいで


いくら半分ほど人間でないとしても、暑さ寒さは普通の人間と変わらない感覚で身体へと伝わる。
その日は特に寒かった。

「〜〜〜〜〜、さっみぃ…」

ネロは暖炉の前で膝を抱え丸くなり、しきりに腕を擦る。
スラム街にも冬はやって来る。雪がどっさり降るほど外は冷え込み、事務所内もかなり寒い。暖炉の目の前だと言うのに。

シャワールームからは水音が聞こえる。
ダンテは、寒いのでシャワーを浴びて即行寝ると言っていた。ネロもそうしようかとは思ったが、髪が濡れたまま寝るのはちょっと嫌だ。かと言って乾かすのも面倒だし湯冷めしかねない。もっと言えば、暖炉の前から離れたくないのが一番の理由だ。

暖炉の前でうだうだしていると、シャワールームの扉を開けて湯気を上げながらダンテが出てきた。
まさかの上半身裸にズボンと言う、まったくいつも通りなスタイルだ。ネロは目を剥いた。

「うわっ、服着ろよ!寒いだろ」

「いや、もう寝るから大丈夫だ」

髪をタオルでがしがし拭きながら、階段を上がって行く。その途中に振り返り、

「寒いし一緒に寝るか?」

「ばっ、…誰が!」

ネロが顔を赤くして睨むと、ダンテは「別に冗談じゃなかったんだけどな…」と頭を掻きながら階段を上がって自室へと入って行った。

ぱたん、と扉の閉まる音がして、ネロは軽く後悔した。
絶対に自分のベッドに入ったりしたら冷たくて仕方ないに決まっている。軽く地獄だ。
暖炉の前から離れられないが、ここで寝る訳にもいかないし、暖炉の火もそろそろ消さなければならない。
寒い。

「……」

ネロは膝に顔を埋めて唸り、しばらくそうしてから立ち上がった。暖炉の火を消し、さみぃと呟きながら足音を殺して階段を上がり廊下を進む。
やがて立ち止まったのはダンテの部屋の前。

「(──いや、だってさ、今日すごい寒いし。そう、すっごい寒いんだよ。だから、あたしのベッドなんかシーツめちゃくちゃ冷たいだろうし。…いや、そのうち暖かくはなるだろうけど、なるだろうけどさ?その間の時間ってあるじゃん、…)」

ネロは頭の中で誰も聞いてない言い訳を必死に述べ、ぶるりと身震いした。寒い、だいぶ体が冷えてしまった。

「(…寝てたら、何も言わない、よな)」

明日の朝だって、どうせダンテより早く起きるのだ。
因みに言うとふたりはいわゆる恋人同士であるが、何故こんなにネロが一緒に寝るのを躊躇うかと言われたらそれはつまり、ネロはいわゆるお年頃なのだ。つまりは恥ずかしい。照れるのである。

大丈夫大丈夫、と自分に言い聞かせてドアノブを慎重に回した。

ベッドの中、図体のでかい身体がひとつ。
よかった寝てる、とネロはそっと息を吐いて、また慎重に扉を閉めた。
足音を立てないように歩き、布団をそっと持ち上げる。ネロが潜り込めるくらいのスペースは空いている。ネロは意を決してベッドの中に入り込んだ。
その時だ。

「捕まえた」

「!?」

ネロに背中を向けていたダンテがぐるっと方向転換、ネロを腕の中に閉じ込める。
急な事にネロは目を白黒、顔を真っ赤にして固まる。

「えっ、ちょ、ダンテ、何で」

「ん?お嬢ちゃんは絶対来るなーっと思ったから」

満足そうにネロの髪に顔を埋めぎゅうっと抱き締める。
少し悔しい。何故かこの男には何でもお見通しなのだ。歳の差だろうか、とネロはこっそり溜め息。

「随分冷えちまったな…女の子なんだからあんまり身体冷すなよ?」

「…ん」

普段自分をおちょくっていても、大事に思ってくれているのだろうか。そう感じるこの瞬間が、ネロは好きだった。絶対に言ってなんかやらないが。
優しく頭を撫でるダンテの手が、体温が、心地よい。
意識がとろとろ溶ける。瞼が実に自然に降りて行く。音量を絞った、囁くような低い声にとても安らぐ。
ネロは無意識に、広い胸板に擦り寄る。あったかい。

「暖かいか?」

「…ぅん…まあ…いんじゃ、ない」

素直じゃないなとダンテは苦笑し、ネロの額にそっと口づけを落とした。

「Have a good dream.」

完全に目を閉じ、小さく寝息を立て始めたネロをしっかり抱き締め、ダンテも目を閉じた。



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