かまってよ、ねぇってば


とある昼下がり、ネロはソファーからむくれた顔で彼を見ていた。

視線の向こうには青年。
赤い髪と目に、浅黒い肌。黒い服。

「なあ、ベリアル」

部屋の隅、本を手に取りぱらぱらとしながら立ち尽くすベリアルは、少女の呼び掛けにびくりと肩を跳ねさせ、そんな態度にネロは溜め息を吐いた。

かつて炎獄を統べていたと言う悪魔が、今何故ネロの元にいるのか?
それは二ヶ月程前、偽神事件から一週間後の事だった。


奇跡的に(と、言うと皮肉だが)たったひとつ残っていた地獄門から、ベリアルが再び姿を現したのだ。
当然ベリアルに敵う者など居らず、ネロが駆り出された。

『はっ、またお前かよ…パーティーならとっくに終わっちまったぜ?』

そう不敵に笑うネロに、ベリアルは雪辱を果たそうと戦いを挑み、しかしまたしても敗北を喫した。
そこからだ。

ベリアルは、何故だかネロに惚れてしまったのだ。
主従関係でも良いから傍に居たい、と、ベリアルはネロの魔具となった。それと同時に、人間の姿でいるようにも。

それから紆余曲折を経て、ネロも段々ベリアルに惹かれ出し、二人は結ばれた。一週間前の話だ。


そして現在、ネロは付き合いたての恋人に盛大に不満を抱いていた。

「なあ、ベリアルってば!」

「むぐ……す、すまんネロ…」

背を向けたまま項垂れるベリアルに、ネロは頬を膨らませた。
ずっとこうだ。

ベリアルは、手を繋いだりといったスキンシップはおろか、ネロに必要以上に近付く事もしない。
当然キスやそれ以上など出来ている訳もない。

「…何だよ。もう、いい」

ソファーの上で三角座りし、膝に顔を埋める。

「あたしの事、すきって、…嘘だったのか?」

その呟きに、慌てたようにベリアルが振り向いた。

「其のような事は無い!誓って、無い!」

「何に誓うんだよ、カミサマか?悪魔のくせに」

一度不貞腐れてしまったネロの機嫌を元に戻すのはかなり難儀な事だと、この2ヶ月で悟ったベリアルはこめかみを掻き密かに唸った。

もういい、と再び口にし、ソファーを立ち上がるネロ。
何をするかとベリアルが見ていると、彼の方へ乱暴な足取りで近付く。

「ネ、ネロ」

「なんでだよ!…あたしが、ヤなの?」

「違う、」

後ずさるベリアルに、睨み付けるネロの目付きが、段々弱々しくなって来る。

まずい、と思った。

「じゃあ、なんで避けるんだよ…」

ネロが近い。
仄かに、甘く柔らかい匂いがした。
欲しいと望んでやまない、穢れを知らぬような真っ白で小さい躯。

ベリアルは己の小心ぶりを、心中で笑っていた。

ネロの心を手に入れ、満たされたが未だ満たされない。
もっと、欲しい。まだ足りない。
そんな、自分のネロに対する底無しの欲求が、いつか彼女を、取り返しのつかない程傷つけるのではないか、と。

──怖い、と。


「(嗚呼、何と情けない)」


「うわっ!?」

ベリアルは衝動のままに、ネロの右腕を引き、柔らかな身体を掻き抱いた。

「…もう少し、可愛げのある悲鳴を上げられないのか?」

喉の奥でくつくつ笑うと、ネロは真っ赤な顔で唇を尖らせた。

「…可愛くなくて悪かったな、無理だよ」

そう言いながら、甘えるように胸板に僅かに頭を押し付けて来るネロが、どうしようも無く可愛らしく、頭を撫でると、ネロはうっとりしたように目を細めた。

「ネロ、我は…お前が壊れてしまうのが、怖い」

そう小さく言うと、腕の中のネロはむっとした顔でベリアルを見上げた。

「バカ、要らねぇ心配してんじゃねえよ」

ネロは、ベリアルの首に両腕を絡め悪戯っぽく笑った。

「アンタを二度も負かしたのに、あたしがそう簡単に壊れるかよ」

嗚呼。今まで、一体何の心配をしていたのか。

この、愛らしくも誇り高い最凶のデビルハンターが、そんな事で打ち負ける筈が無いのだ。

ベリアルは、口角を吊り上げた。

「──違い無い。…ならば、もう遠慮は要らんな」

ネロの頬にそっと手を添えると、白い肌に再び朱が差した。

「…このような時は、目を瞑るものでは無いのか?」

「ばっ、…どこで覚えて来んだよ、そんなの」

「さあ?」

ほら、ネロ。

耳元で囁くと、びくりと身体を揺らし、漸く目を瞑る。
ベリアルも、そっと目を伏せた。

「待たせて済まなかった、ネロ」

ゼロになった距離。
ネロの唇は柔らかく、どこか甘く感じた。


「(幸せ、とはこのような感情なのだろうか)」


随分絆されたものだ、と思いつつ、ベリアルはこの感情を享受する事に決めた。



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と言う訳でベリネロ子でした。

私の中ではこんなイメージです(^q^)ごめんベリアル
ダンネロはネロがひたすらツンデレだけどベリネロだとデレデレと言うか積極的と言うか。オッサンつらい。




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