0616
2012/06/16 20:16

ネロの笑顔は、それはもう貴重なものだった。
ネロはどちらかと言えば不機嫌な事が多くて、兄さんも私も、そんなに頻繁に見られるものじゃなかった。他人ともなると尚更。
だから、ネロの笑顔を見ると堪らなく幸せだった。みっともない独占欲がみるみる満たされてゆくのを感じた。
それは、これからもずっと、変わらないと思っていた。

いつしか、ネロの笑顔を独占するのは私ではなくなっていた。
赤いコートの彼。
いつの間にか、ネロの笑顔だけじゃなくて、その隣までも独り占めしてしまっていたのね。


「俺、ダンテの所に行くんだ」


デビルハンターの修行だって言うけど、建前だなんて分かるわ。何年あなたの側にいたと思っているのかしら。
ネロが私に嘘を吐いたのと、ダンテさんに取られてしまったのとが悔しくて、私はネロを呼び止めた。

「ネロ、待って」

振り向いたネロの唇に、私の唇をくっつけて。
必死なそれはファーストキスにしては随分ロマンチックとは程遠いものだったけど。
私にだってこの位の権利はある筈よ?
真っ赤になったネロを後ろに向かせて、強引に背中を押した。


さよなら。



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