0518
2012/05/18 00:03

内容としては、普通のホラー映画、と形容するのが妥当な所だろう。
以前にも映画館には来た事がある。あれは確か若とだったが、あの時のアクション映画はとても面白かった。
しかしこれは何と言うか、まあ身も蓋もない事を言えばつまらない。古い洋館を舞台にしたよくありそうな映画だ。

「(うーん…?)」

ひじ掛けに頬杖をつき足を僅かにぷらぷらと揺らす。バージルに毎回怒られる癖だが、残念な事に直っていない。
ルイスにとっては画面一枚隔てた向こう側で起こる作り物の出来事など怖くはないし、実際これより遥かに怖い目には何度も遭っている。

「(…お客さん、あんまりいないなぁ)」

完全に飽きてしまったルイスは周りを見回した。
自分たちの他には、若いカップルが一組と、陰気そうな男がひとり。だけだ。あんまりどころか殆どいない。

『かああああぁえせええええぇ!!!』

「わっ」

何となく再び画面に目を戻した途端に響く呪詛の声と、恐ろしい形相の女のどアップに流石のルイスも驚いた。画面の中では主人公の少女が悲鳴を上げて女から逃げようと死に物狂いで走っている。

「うぅびっくりしたぁ…ねえ、ネロ、」

同意を求めようとネロの顔を見上げたルイスは、そのまま首を傾げた。
ネロは自分の問い掛けに反応を示す事も無く、半ば呆然とした面持ちで画面をただ見つめていたのだ。

「…ネロ?」

「…………」

この映画そんなに面白いかなあ、と改めてスクリーンを注視するが、やはり面白いとは思えない。
そう言えば、最初の方にきゃあこわーい、大丈夫僕がいるよ、といちゃついていたカップルの声も全く聞こえない。見てみると、ふたりはやはり瞬きも忘れて画面を見つめていた。残りの男も同様だ。

「??」

何だろう、大人になったらこの映画面白いのかな、と考えて、やや納得いかないまま再びスクリーンを見てみる。

少女は自分を執拗に追って来る女の肖像画と、古びたアルバムを見つける。そこには女の生前の写真と、女の非業の死を事細かに記した新聞記事があり、少女は事の真相を知る(ただしルイスはあまり見ていなかったのと言葉が難しいのとでその真相が何だったのかよく分からなかったが)。

少女が真っ青な顔でアルバムを閉じたその時、

「(あ、これうしろから出るのかな)」

少女の背後にあった肖像画から女が這い出て、襲いかかる。

「(当たっちゃった…)」

怖がらせようとする者の考えは得てしてワンパターンなものだ、とルイスは頭を掻いた。
掻いたついでにネロの顔をもう一度見上げてみると、明らかな異変にルイスは目を見開いた。

「…ぁ、あ……」

「…ネロ?ネロ!どうしたの、ねえ!」

怯えたような顔で、身体はがたがた震え、恐怖に掠れた声が口から漏れる。ルイスが声を掛け身体を揺すっても反応が無い。

「ネロ!どうしたのってば!へんじしてよ、」

確かにネロがあまりホラー物が得意でないのは知っているが、いくら何でもこれ程ではない。
他の客も同様に怯えきった様子で、半ば取り乱してすらいる。

「な、なんでぇ…」

ルイスも涙目になって来たところで、ぞわりと嫌な気配を感じた。

スクリーンから、だ。


「…え、」

勢い良く振り向いたルイスの目に飛び込んで来たのは、


『うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ、』

「、」


スクリーンに映ったままの姿で、大きさで、あの女が這い出て来たのだ。



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