「なにしてるの?」
「髪の毛をね、編み込みにしようと思って」
寮の共同スペースで雑誌と睨めっこするあの子は、器用にも見えない筈の後頭部の髪をいじっていた。背中から雑誌を覗き込むと、さまざまなヘアスタイルが載っていた。
「ね、ちょっとやらせてもらえないかな」
夏油は自分が器用な人間だという自負があった。雑誌を見て、そこまで難しそうじゃないし、それに、少しわくわくしながら髪を触るあの子を見たら何だか楽しそうだと思ったのだ。
「…夏油、髪の毛いじれるの?」
「ほら、私も髪の毛長いだろう」
そんなこと言ったって、夏油が髪の毛をアレンジしたところを見たことがない。ジト目で見るあの子を放って、返事を聞かずに「触るね」と髪の毛を攫った。
「…夏油、大丈夫?」「…うん、うん?」
十分くらいで出来るはずのそれは、倍の時間を費やしても出来上がっていなかった。うんうん唸りながら髪をいじる夏油に不安を覚える。
「…できた!」「ほんとに?」「うん」
不安はあるが、器用そうな夏油を信用して教室に向かった。
「アッハッハ!嵐にでも巻き込まれたのかよ!」
「ヤバ」
目があった瞬間。五条は腹を抱え机をバンバン叩き大笑い、硝子は吐き捨てるように一言。急いで手鏡を取り出し、何とか見れる範囲で確認すると、それはもう芸術的(笑)な出来栄えだった。
「…夏油」「…だめだったか」
しょんぼりする夏油は目を伏せて頬をかいた。騙されない、騙されないぞ。この男は自分の顔の良さを分かっててそんな表情するんだ。
「もうゼッタイ夏油にやらせたげない」
「っ、なんで、楽しかったのに」
あわわわわと少し慌てて言う夏油。
「あのね、夏油ね、自分で思うよりずっと不器用だからね」
いや、悲しそうな顔すんな。