ぼんやりとしたまま共同の洗面所に立っていると、自分より頭二つは小さい姿が横に並んだ。
「おはよう、夏油にも髭とか生えるんだね!」
「おはよ、悟にだって生えるよ」
髭を剃る夏油を覗き込んでくるあの子は、首に通していたヘアバンドを上げ、洗顔料を手に取った。
「五条も髭生えるの?肌ツルツルなのに?ね、五条って髭も真っ白?お爺ちゃんみたいになる?」
「…ちょっと、髭剃ってる時にそんな面白いこと言うのやめてくれ」
髭剃りを顔から離してあの子を見ると、ふわふわの泡を両手に持ってにこにこ笑っていた。
「…待って、夏油。五条が髭剃らずに伸ばし続けたら、サンタさんみたいになるんじゃない?」
「ふっ、やめ、」
「クリスマスまで髭剃るのやめてもらおうよ。高専クリスマスパーティーのサンタ役は五条しかいない」
「やめっ、」
泡だらけの顔でくだらないことを言うあの子は、とうとう「うわ、口にせっけん入った!」と叫んで、慌てて水をかぶった。
「夏油、普段は髭生えてるかなんて全くわかんないくらい肌綺麗だねえ。女の子泣かせだ」
「うーん。肌が綺麗かどうかで女の子泣かせたことないから分からないけど」
「お、色男発言だね」
顔を洗い終わったあの子と、髭を剃り終わった夏油は、並んだまま歯ブラシを咥えた。
「あっ」「うん?」
「夏油、髪の毛寝癖ついてる」「どこ」
「後ろ、かくかくしてるよ。どんな寝方したの」
「水つければ直るよ」
「ねえ、夏油」
「他にも寝癖ついてるかい?」
「今は、ちゃんと笑えてる?」
真っ直ぐ夏油の目を見るあの子は、口の端にたくさん歯磨き粉をつけて大真面目な顔をしてそんなことを聞いた。
夏油は笑って答えた。
「ああ」