「ああ、君、夏油くん知らないかい?」と、目の下に立派な隈をこさえ、やつれた青白い顔のスーツ姿の人に声を掛けられたのは半刻程前だ。やあね、補助監督サン達も、私達も。呪術界って労基の概念ないのよね、と疲れ切った補助監督サンに買ったばかりのお茶を差し出してしまったのは、条件反射に等しかった。

その時既に夕暮れ近くて、当然高専での授業は全て終わっていた。手っ取り早く寮に行くと、そこには狩りに勤しむ五条がいるだけだった。事情を説明すると「チョット待ってな」と目を閉じて集中した彼は、再び目を開け「あっち、風呂ンとこの休憩所」「えっ、何、すご」「お前呪力感知下手ネ~~」「いつかの任務でどさくさに紛れて暗殺してやる」「ウワ、負け犬の遠吠えワンワン」「うわ。ほんとクズ」しょうもないやり取りをして、最強の片割れを探すべく、クズの方に背を向けた。

ーーーーあ、いた。

「おーい、夏油。君に書類の不備って…あれ、げとうさん…?」

十五歩くらい手前で声を掛けた。応答ナシ。近付いてみれば、彼は休憩所の長椅子に腰掛けたまま、寝ていた。隣に座り、顔を覗き込むと、切長の目は柔らかく閉じられていた。ふむ、起こすのも忍びないし、目の前の色男を眺めとくか。
時間にして、十分かそこらだったと思う。彼の顔から、不備があるらしい書類に目を移し、案外綺麗な字を書くもんだと感心していたところ、隣から動く気配がした。ぽやぽやとした彼は、私に気が付くと、切長を目一杯開けて、驚いていた。

「え、なん、え」
「いやね、夏油の出した報告書、不備があるらしい。瀕死の補助監督サンに頼まれた私は、君を探していたところ何と君はここですやすや…疲れてたんだね。あ、おはよう」
「…お、起こしてくれるかな、そういう時は!恥ずかしいだろ」
「え?恥…?え、どこが?カワイイじゃん」
「ヤダろ、何か。同期に寝こけてるの見られるのって」

心なしか、耳をほんのり赤くした夏油は口をへの字にした。

「え~、そこはさ。好きな子に見られたくないだろ、くらい言ってよね、色男!」

その言葉に、顔を赤く染め上げた夏油は、こちらに少し濡れたタオルを投げつけ言った。

「好きになったらどうするんだ、君ってやつは…!」

まじか。まじか、夏油傑。
私はごめん、と呟く他に何も言えなかった。



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -