「はわわ」
多分、あまりに口に出さないような音が口から漏れた。
「…か、かわ…ええ…まんまる…ちんまい…わあ」
あまりの衝撃に語彙力はみるみる失われ、口から出るのは幼子が使う様な単語ばかりだった。
「ン!」「え、キャワ」
不満げな声が現れ、こちらを警戒し距離を取るそのちんまい子に合わせてしゃがみ込む。
祖母宅の近く、緑が生い茂る裏山にいたのは小さな化け狸の子供だった。
「ごめんね、怖がらせちゃったかな」
お詫びにと、拾っていたドングリを、いくつか手の平に広げて「どうぞ」と差し出してみる。
袈裟を着て、艶々とした黒髪をハーフアップにしてお団子にまとめたその子は、ドングリと私を何度も見比べ、しばらくそのままでいると、やがて、とてとてと愛らしい仕草で近づき、私の手の平のドングリを一つずつ小さな手で取って繁々と見ると、
「わたしに、くれるの?」
と少し高い、涼やかな声で言った。カワイイ。
「うん、どうぞ。あなたは、たぬきさん?」
「ありがとう、すぐるだよ」
「すぐるくんかあ~~かわいいねえ」
「きみは、あんまり見たことない」
「おばあちゃんのお家に遊びに来てたの。今日は綺麗な葉っぱを集めにこの裏山に来てたの」
「葉っぱ?」「うん、そう、これ」
クリアファイルに丁寧に挟んでおいた様々な葉っぱを見せると、途端に目を輝かせて、クリアファイルを掲げて見ていた。
「あ、すぐるくんたぬきだから葉っぱ好き?一番綺麗な葉っぱあげる」
その言葉を聞くと、その子はこれがいい!と一枚を指差し手にこにこと笑った。
うん、カワイイ。