当たり前の美しい未来

「ただいま。」

シャツのボタンを上からふたつ開け、靴を脱いで屈むディオに後ろから声が掛かった。

「お帰りなさい、今日は早かったね。」

「ああ。君とジョルノにはやく会いたくて。」

振り向きざま、その小さく膨らみはじめたお腹にキスを落とせば、名前はくすぐったそうに笑う。

「ふふ。それで、今日も勝ったの?」
「勿論。」
「流石だね。ほらジョルノ、パパが帰ってきたよーって。」

言いつつ、自分のへその上あたりを優しくくすぐる。ディオは彼女の額と、もう一度名前が撫でた場所へ唇を落とし、腰を低くしたまま名前を仰いだ。

「君からは?」
「ん?」
「俺も君からのキスが欲しい。」

そう言うと、きょとんとした顔がみるみる赤に染まっていく。名前はやりずらそうに視線を左、右へと移し、一つ咳払い。

「ん〜〜〜、今日の晩御飯何がいい?」
「またそうしてはぐらかす。なんでもいいよ、君の作るものなら何もかも美味しいから。」

逃げるように玄関を出ていく名前の背へディオは笑いかけると、お国柄ってやつだよ、と名前が小さく言い訳をした。



「あら、新聞は?」

キッチンで鍋に向かっていた名前の肩に腕が絡む。火を弱めてその金色の髪に指を梳くと、ディオは少し目尻を下げた。

「もう読んだよ。最近は面白いことがあまりないな。」
「ディオは頭が良いから、あなたを満足させられるようなことはなかなか起きないのね。」

名前が、私は難しいことはよくわからないけれど、そう笑って言う。ディオはその顔をじっと見て、満足か、と呟いた。

「名前、俺は今、とても満足している。」

その言葉に名前は、そう、と頷く。
ディオは両腕を彼女の背へ回し、掬うように抱き締めた。

「君となら、永遠を過ごすのも悪くなかったな。」
「私は、あなたとずっと居るつもりだけど?」

ディオは違うの?、冗談混じりのそれに、返事はない。代わりに腕に込めた力が強くなる。

「ディオ?」

不安げなその声へ、ディオは優しく息を吐いた。

「そうだな、ずっと、じゃない。永遠だ。」

「永遠、」

「ああ。百年、千年、それ以上の刻を。一緒に生きるんだ。」

「……それは、とても素敵で、幸せなことだと思う。けれど、限られた時間というのも、悪くはないよ。その中で過ごす時間を、お互いのことを、もっと大切に出来ると私は思うの。」

まあ、どんなことがあろうとディオから離れるつもりは無いけどね、名前はぽんぽん、ディオの背中を叩く。彼は名前の肩に額をつけると、深く息を吸った。

「俺は、全てが欲しかった。富、名声、力、権力、栄誉。全てを超えて、1番になりたかったんだ。けれど、今は、」

「うん。」

名前が彼の目を見つめ、微笑んだ。触れるだけのキスは深く、長いものになる。ディオは二人の唇が触れあう距離でぽつり呟く。

「君の1番になれたら、それでいい。」

「もちろん、あなたはいつだって私の1番よ。世界で一番、愛してる。」

ディオはもう一度、名前を抱きしめる。
二人の体温が溶けて、ひとつのように。
心から願った、この人と、離れることのないようにと。


「ああ、今、とても満たされている。自分の、この世界に。君がいて、ジョルノが
いて、俺がいる。さて、これで君のキスが
あれば、完璧に満たされるのだがな。」

「え、」

右も左もディオの腕、目の前には彼の顔。今度は逃げられそうもない。そもそも、彼にキスしたく無いわけではないのだけれど、やはりまだ恥が勝つというか。しかし目前にあるディオの顔が少しだけ寂しそうな色を落としたのを見て、ええいままよ、
名前はディオの頬に軽くキスをした。

「じゃ、じゃあ夕飯にするから座ってて!」

自分の腕をくぐり抜け猛烈な勢いで包丁を振るう彼女を見て、ディオは楽しそうに
笑い、そして好きだと言った。


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