たかくけいのしあわせと

あー、やっちまったな、と思った。
何をやっちまったってほら、今この部屋の状況ね。
俺と名前とギアッチョと。
居辛いにも程がある。
ぼーっとテレビを見ている名前、それを
見てそわそわ落ち着かないギアッチョ。
ああ、コイツ見てるとどうにもなんだか腹の奥がむず痒い感じ。だけど今出てったらおかしいよなあ、タイミング逃した。
‥‥くそ、しょうがないか。諦めて今日届いたばかりのえっちな本を捲る。名前の国の。名前が気づいてこっちを一瞥したみたいだけど、特に何も言わずに顔を戻した。ギアッチョは、いつもなら俺がこうしてると顔を真っ赤にして烈火の如く怒鳴り散らし俺のこと部屋に帰すのだけど、今それどころじゃないみたい。というか、名前と2人きりになるのが嫌なのかなーって。なんでかというとギアッチョは、只今絶賛名前に片想い中、だから。まさかこの暗殺チームでそんな、なんて初々しくていじらしくって、
なんて可愛らしいのでしょうか。俺は大いに結構だと思うよ、うん、思うのだけれど。なかなか進歩が無くて。名前がちょっとばかり鈍感なのも悪いけど、原因はほぼ
ギアッチョのほうだと俺は思うね。イタリア男ならズバッとズブっと愛の告白でもなんでもしちまえばいいものの、いつまで
たってもうじうじむにゃむにゃ。なかなか踏ん切りがつかないみたい。まあなんとなく理由もわかるけど、玉砕したって一応いつか死ぬまではこのチームなのだから居心地悪くなるしね。気まずくなるだろうしね。今の関係が変わるのが恐いんだね。
まああと原因を挙げるなら、あの男、プロシュート。こいつがそりゃあもう厄介だ、ギアッチョにとって。プロシュートもどうやら、というか隠そうともせず名前のことが好き。遊びじゃなくて本気なやつ。その気になってからは他の女とはぜーんぶ縁切っちゃった。勿体無いことするなあと、俺は思ったけれど、名前を大事にしたいんだってさ。あの人からそんな言葉が出てくるなんて笑っちゃう。オッさんはギアッチョと違ってぐいぐいいってるから、流石の名前もそれとなく気づいてる、だろうなあ。今のとこ、名前がそれに応える様子は無いけれど。明らかプロシュートが有利だ、だから俺はどっちかっていうとギアッチョ派。だって最初から傾いちゃってたらちっとも面白くないじゃん。勝負はフェアにやるべきだ。なんて、当人に言ったら凍らされるのがオチだから言わないけどね。さて、読み終えてしまった。なかなかイイ内容だったのと、どことなく動きづらいのとで2週目に突入。
するとそこで、ギアッチョの声がした。

「なあオイ、名前。」

ちらちら刺さる目線が気になるけど、どうやらギアッチョは俺が本に集中しているだろうと行動に移ったようだ。手は出さないから頑張って続けてみろ、ギアッチョ。

「ん〜?」
「お前、その、あー、この前、さ、‥‥プロシュートと2人で出掛けたってのは、ほんとか?」
「プロシュート?‥‥うん、そうだね、行ったよ。」
「そ、そーかよ。」
「うん。」
「‥‥。」
「あ?なに、終わり?」
「いやッ、そのな、名前次の任務無え日、とか、」
「明日っから長期のがはいるから大分遠いかなァ。」
「聞いてねえ!」
「言ってないもん。なんか用だったの?」
「用つーか、なんつーかその、」

ああ、まどろっこしい!つまりギアッチョはデートに誘いたいんだろ?なのに名前が無意識にものらりくらり躱すせいでどんどん身動きとれなくなってる。バカ。本で隠しつつそっと覗けば、ギアッチョは赤くなったり青くなったりを繰り返して、それを名前は不思議そうに見ていた。

「名前、今度いつでも良いからよ、」
「うん?」
「その、お前欲しいモンとか無え?」
「え、たっぷりの睡眠時間。」
「〜〜〜ッそういうんじゃなくてよォ!!」
「ちょ、ちょっと怒んないでよ、どしたの?」
「あのな!俺はお前のことが、」

おっ、これはもしかしてもしかするのか!?サイドテーブルを拳でばんと叩いたギアッチョに身体を竦ませる名前。告白ってムードもへったくれもありゃしねえが、こうなったらいってしまえ!


「オイオイ、物騒だな最近のガキは。」

うわあ。

ギアッチョと名前が視線を動かした先にはゆうゆうと佇むプロシュートの姿。ゆっくりと名前に歩み寄って、ぽんぽんと頭を撫ぜた。その様子にギアッチョが舌打ちをひとつ。

「汚ねー手で名前に触んな、クソジジイ。」
「は、告白もロクに出来ねえクソガキが。」
「!てめえ、いつから、」
「さあなァ。ただてめえが名前をビビらしてンのがあまりにも可哀想だったからな。」
「ビビらしてなんかいねえ!」
「どうだか。お前はイラつくと何でもすぐぶっ殺すからな、信用ならねえ。ほら、汚ねえ手っつうのはテメエのも同じだろうが。」
「俺のはテメエみたいな悪質なスタンドよかマシな殺しだ!」

あーあ、こりゃ駄目だ。こういう話を名前は特に嫌うのに。二人とも頭に血ィ上っちゃってるから、もう罵り合い怒鳴り合い。挟まれた名前は悲しそうだ。暗殺チームに所属する名前が俺らに望むこと、皆仲良く。そのぬるま湯に浸るような考えた方を、俺は結構嫌いじゃあ無かったりして。

「ね、名前、」

突然話しかけられてびっくりのその顔に、キスを落とす。名前の手からリモコンがごとりと落ちた。しんと静まる部屋。

「元気出た?」

ウインクを送ると、名前の瞳がゆっくり滲んだ。一瞬それに気を取られ、がっしり拘束された俺の両腕。

「グレートフルデッド!」
「ホワイトアルバム!」
「あッ馬鹿テメエがスタンド出したら俺のが意味無くなるだろ!?」
「死ねッ!死ねメローネこのド変態クソ野郎が!!」
「俺の話をきけマヌケ!!!」


あのね、なんていうかほんとの話すると、名前のことなんて皆が皆狙ってんだよ。ホルマジオもイルーゾォも、リーダーも、勿論俺も。プロシュートに遠慮してるけど多分ペッシも。まあ、ソルベとジェラートはわかんないけどさ。だって皆の一番近くの女だから。一番理解してくれる人だから。口に出したりしないけど、こんな俺らも心の平穏っつーの?求めてるんだよ。自分の安心出来る場所。そんじょそこらの女じゃ務まらない。‥‥俺も欲しいよ、名前。


「アンタらもさア、お二人で楽しく騒ぐのは大変結構ですけれども、ずっとそんなことだと気付いた時にはもう遅いんじゃあないの?」

2人の方を見ると、目がマジになってて。おお怖い怖い。こりゃもう一悶着あるかなって、思ったら。

「決めた。」
「あ?」
「行きたいとこ決めた!甘いもの食べたい!」
「ハア!?」
「から、新しく出来たジェラートのお店行こ!」

4人で!、ぐるり見回して、俺と目が合えばにやりと笑って見せる。

「うん、名前は、イイコだね。」
「メローネも良い子だよ。」

俺が目をぱちくりさせると、名前はありがとうと小さく呟いた。ああ、やっぱり、

「お前らどっちかにあげちゃうなんて勿体無いなあ!」
「うるせえ!死ね!メローネ!」
「ねえねえ、何味?何味にする?メローネはやっぱりメロン?」
「その理屈で言うとプロシュートは生ハム。」
「‥‥信じらンねえ。」
「ふざけんな、コイツらが行くってなら俺は、」
「行かないってのは無しね、ギアッチョ!」

先手回りした名前が楽しそうに笑って、プロシュートとギアッチョの手をそれぞれ取った。みるみる2人の殺気やら敵意が萎んでいく。プロシュートは、やれやれって名前を小さく小突いたら、ギアッチョは不満そうだけど薄く口角が緩んだ。それを見て俺も、自分がじんわり温かくなるのを感じる。ああ、良かったなあって、ここに名前が居てくれて俺らが居られて、良かったなあって思うんだ。

「メローネ!」

俺を呼ぶ声。
いつか必ず、何かは変わってしまうけど、ずっとこのままでなんて、居られないけど、
ねえ、もう少しこのままでも、良いんじゃないかなって、俺は願うよ。


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