「きゅうけつき、」
「そう、吸血鬼。」
「‥‥?」
「おーい、かたまるな。」
目の前でひらひら指が泳ぐ。
その大きな手が伸びて、ぎゅうと頬を挟まれた。
「なにひゅるんでふか!」
「や、目ぇ覚めたかな、ってよ。」
ぱっ、離したそれを顔の横で開いて閉じ、開いて閉じ。
「そんなんとっくに覚めてます。あんなことされてまだ寝ぼけてられる程、神経図太くありませんから。」
あんなこと。思い出して首をさする。多分、薄く跡が残っているだろう。ホラーじゃねえか。けほ、噎せるとしかまるさんはがしがし頭を掻いた。
「痛い、よな。悪かった、」
「謝罪はいいですから、きちんと説明してください。」
見つめたその目は、あっちゃこっちゃを行ったり来たり。逃げられると思うてか貴様。もうここまでしたのだから腹くくれ。まあ、ポリスメン行きだけどな。何があってもただでは済まさん。やられた分はきっちり返すぜ。
「吸血鬼なんてふざけたこと言っちゃうくらいには、余裕も何も無い感じなんでしょう。」
「あれ、信じてねえの。」
「いやいや待ってください、逆に信じたと思ったんですか?」
「それ、」
「は?」
「首のそれ、つけたの俺。」
「韻踏んでる‥‥!じゃなくて、」
しかまるさんが指差す先には、
「え、これ虫刺されじゃ無いんですか。」
「噛み跡。」
「はあ、噛み跡。」
「俺の牙でこう、ガブっと。」
「しかまるさん。」
「ん?」
「なんつーか、頭がばこんしそうなんですけど。」
しかまるさんは目をぱちぱちさせる。
「そりゃ、大変だな。」
怠そうに笑うその顔を、あ、カッコいいなと思ってしまう具合には、私の脳もお手上げなようです。