《 へんてこりんな 》 | ナノ
第弐夜

次に目をひらくと真っ白だった。

さっきまでごつごつだった背中の下は、さらさらしたシーツに変わっている。なんだっけ、なにがあったんだっけ?困ったな、あたまの中も真っ白けっけ。じっとり痛む頭を押さえ一人回想にはいろうとしていたら、しゃっと仕切りのカーテンが開いた。

「あ、目ぇ覚めた?」

まわりと同化しそうなくらい真っ白な、白衣にマスクに銀髪のカカシ先生が笑う。

「誰かが担ぎこまれてくるのなんて久しぶりでびっくりした。準備体操中に倒れたって。」

そうでした、私は体育の時間中に倒れたんでした。時計を見るとそれから優に一時間は経過している。

「うわ、随分長居してますね。ベッド占領しちゃって申し訳ないです。」
「ほんとにね。先生のお昼寝スペースなのに。」
「三十路がお昼寝とか言ってんじゃねえですよ。」
「ま、酷い。先生こんなに心配したのに、名前のこと。」
「心配、ですか。」

先生は後ろ手でカーテンを閉めた。私の寝転ぶベッドの端に腰掛けて、へらりと笑う。

「そ、いつもはサボりに来るだけなのにね。迫真の演技だなあって暫く見てたんだけど、どうもそうじゃないらしいって気づいたから。」
「疑ってたんかい。」
「日頃の行いってやつだよ。」
「‥‥善処します。」
「ん?いいよ、たくさん来て。名前ちゃんなら。」
「いや、いくない。ダメですよ甘やかしたら、図に乗りますから。」

マスクの中でフフ、と笑いを溢し、先生がくしゃくしゃと頭を撫ぜる。だいぶ調子戻ってきた?、こくりと頷くと、ちょっと真剣な目をした先生が私に目線を合わせて、何度か小さく頷く。

「さてと、なんでまた倒れたりなんかしたの?今まで定期の健康診断でも、ひっかかったこと無いのに。」
「はあ、なんか最近調子悪くて。疲れが取れないっていうか。」
「ふーん、急に意識失うってことは何かなあ、結構大事だよ。ストレス、では無さそうだし。ちょっと失礼、」

カカシ先生がその両腕を私の顔へと伸ばす。竦んだ首も関係無しに下まぶたを引っ張られた。あっかんべーの両目バージョン。

「うわっ、」
「えっ、うわって何ですか。」
「や、すごいよ、びっくりした。ね、今日朝ご飯食べてきた?というか、ここ最近ちゃんとご飯食べてるの?毎日6時間寝てる?」
「え、え、そんな矢継ぎ早に言われても。えっと、ご飯はしっかり食べてるし9時間は寝て、ます。」

先生はちょっと目を閉じて、しばらく迷っているようだった。恐る恐るといったふうな声。

「‥‥今もしかして生理?」
「一週間前に終わりました。」
「そっか、ごめんね。」
「なんですか私の周期でも調べるつもりですか。」
「まさか、そんな趣味はありません。」
「怪しいなあ。」
「名前のだったらちょっと知りたいかもね?」
「おまわりさんは110か。」
「やめてやめて、先生辞めなきゃいけなくなっちゃう。」
「生徒を危ない目で見てる先生が保険医なんてとってもデンジャラス。」
「ふうん、名前、アスマの日本史に毎回出なくちゃならなくなるね。他の人だと、そう簡単にベッドを貸したりしませんよきっと。」
「ンン、やはりカカシ先生でないと。」
「いろいろ危ない子だね、名前…。」

先生が若干白けた目線を送ってくるので、プライスレスなスマイルをお返しする。取り敢えず笑っとけ笑っとけ。

「ま、おふざけもこのへんにして。名前、すごい貧血なの。つまり体中の酸素が不足した状態ってことなんだけど。例えば動悸とか息切れとか、めまい、頭痛、全身の倦怠感、思い当たることない?疲れがとれにくいって言ったよね、まさにどんぴしゃ。」
「貧血?」
「うん、それがひどい場合は失神しちゃう。」

血が貧しいと書いて、

「貧血、ですか。」
「色々要因はあるんだけどね。生まれた時からそうってこともあるし、あとは手術でなることもある。だけど、どれも名前には当てはまらないから、けどなあ、名前に限ってダイエットなんて、してる?」
「まさか。」
「だよね。」

先生はちょっと困ったように目を細める。

「これ以上は、もっと細かい検査しないとわからない、かな。今日はもう帰って、親御さん家に居る?病院連れて行ってもらいなさい。」
「わかりました。」
「いい子。おだいじにね。あ、あと、運んでくれたイルカ先生に報告してから帰るの、忘れないように。」

ぎゅっと、私の手に飴を握らせると、先生はばいばいと手を振った。
私も振り返してから、保健室の戸を閉めた。


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