「趣味将棋て!」
「んだよ。」
「おじいちゃんかよ!!!」
欲しいもの決まりました、シカマルさんのご趣味は何ですか。
いつものように窓から入って早々のその質問に、シカマルさんは古いお見合いみたいだ、と苦笑した。
「いつまで笑ってんだよ。」
「や、すごいですね、趣味将棋て‥‥。」
不満そうに口をへの字にするシカマルさんは、見た目だけだととても吸血鬼らしくない。なんというか、古風といいますか。どちらかといえば侍とか、忍者とか、そっちの系統っぽいので、その趣味は彼になかなか似合っている。吸血鬼だったらチェスって言えよ、これは勝手なイメージだけれども。
「将棋かあ、おじいちゃん好きだったな。そういえば縁側でよく、」
そこまで言ってはたと思う。
「あれ、シカマルさんて何歳なんですか?」
「さあな。」
シカマルさんはぎくりと肩を揺らして、頬を掻いた。
「さあな、て?」
「あー、‥‥300は超えてんじゃねえの?」
「さんびゃく!?」
「もうそのあたりから律儀に数えたりしてねーからなあ。」
めんどくせーから。
「そもそもお前らとは時間の感覚が違うっつーか、これでもまだまだ俺はひよっこなんだぜ。」
「へ、へえ…。」
私の約20倍は生きてらっしゃる。
すごい、というか、想像できなくていっそ気持ち悪い、というか。
「つっても何百年なんてあっという間だ。気づいたらこんなに生きてるんだからよ。」
「‥‥そう、なんですか。」
言われてなんだか少し寂しいと思うのは、私がシカマルさんと過ごしてきたこの時間も、彼の中では一瞬のことにすぎないことだと教えられたから。ほんのまばたきするくらい、そんなちっぽけなことにすぎないのだと、そういう。
「けどよ、」
「はい?」
「お前と会ってからは、毎日、ちゃんと覚えてる。」
「は、はあ。」
ふいと下を向いたシカマルさんの耳が赤い。じわじわと、自分の頬も紅潮するのがわかって、妙に恥ずかしい。
「おら、はじめんぞ。課題終わってんだろうな、お前。」
「シカマルさん、」
「‥‥おう。」
「なんか、嬉しいです。」
ちょっとびっくりした表情で、シカマルさんはこちらを見る。そんな顔は私とそう離れていないようなのに、彼と私はとても遠い。
できるなら、
あなたの人生は途方もなく果てしなくて、けれどできることならこの先、ふとした時にこの時間を思い出してくれればと、私は思います。
比べられないほど短いこの人生で私は、きっと何度も思い出しては、大切に思うだろうから。