とても現実的なお話をしましょう、実のところこの私、高校受験に失敗してしまった身なのです。家計が火の車に成る程では無いけれど、負担を掛けてしまっているのは事実。しかしながら、そろそろ次に来たるお受験のことも、考えなきゃならないわけでして。いやもうすでに出遅れてるけどなんかしらしなきゃ、どっこいこれ以上お金を出してもらうのもなんだかなあ。
「つまり無料の家庭教師をゲットしたってことですねやったー!」
正直塾通うのも怠かったし、だけど家庭教師は目ん玉飛び出るほどなんだ、ねえゼロの数間違えてない?って。我ながら、これはなかなか良い掘り出し物というか拾い物というか。
「じゃ、それでお前も文句ねーの。」
「ええ、一日一回の吸血権と交換に、私はしかまるさんに勉強を教えて頂くということで。」
「吸血権、てな。」
「まあ物は考えようですよ。血なんぞ毎日生産されるし、限度を守ってもらえればなんとかなるものの。数学わかる人が数学わからない人に教えるのって、ほんと拷問じみてますもんね。」
「‥‥めんどくせーけど、しょうがねえか。」
しかまるさんはベッドの上にあぐらをかいて、大きく伸びをした。私もそれにつられたように大きくあくびする。彼は目を細めて笑った。
「ん、今日はそろそろお暇するわ。」
よっこらせ、窓枠に足をかけこんこんと深い空を眺めるその人の背中。
「ねえ、しかまるさん。」
「あんだよ。」
まどろみのなか、薄く滲むしかまるさんに尋ねた。
「どうして私と契約したんです?」
「‥‥テキトー。」
瞬間、もうしかまるさんの姿はそこに無い。
全開の窓を閉めることすらせず、私はまた眠りに落ちた。