《 へんてこりんな 》 | ナノ
第捌夜

「まー、むかっ腹が収まらねえ気持ちもわからんでもねえけど、目に見える証拠っつったらこれくらいしか無いんだよな。」

さてそこからはじまった長い話をまとめますと、
そもそも吸血鬼という存在は希少であり、確かにたくさんの特化した能力を持つものの、弱点もまた然り。そうして人間が進歩すればするほど吸血鬼というモノ自体は薄くなっていき、しかし彼らは死なない為完璧に消えることも無いまま今現在、あるきまり≠ェつくられたそうな。無闇に人間の血を吸ってその存在に気づかれることのないように、自身と契約した人間の血以外を得てはいけないこと。

「そうやって自己を縛るうちに、俺らは少しずつ人間に近づいてきている、らしい。ご先祖様のように太陽浴びても灰になったりはしねえし、超能力みてえな力ってのも何倍か視力やら体力やらが上だったりする、とかな。不老不死もまあ、昔の話だ。」
「吸血鬼も苦労してるんですね。」
「時代の流れには抗えねえっつーか、そういうこと。」

そう言った自分を鼻で笑ったしかまるさんは、少し寂しそうに見えた。

「しかまるさん、情煽ろうとしてません?」
「‥‥トマトジュースじゃ味気ねえんだよ。」
「生きていけるならそれで我慢しなさいな!」
「全然違え、お前らが肉の代わりに豆腐ステーキ食うようなもんだぜ?」
「ヘルシーで良いじゃないですか。」
「お前、これからの人生一生肉抜きで豆腐ステーキ食ってろって言われたらどうする?」
「とりあえず窓から飛び降りるかな。」
「ほらな、俺のこと助けると思えよ。」
「ほ ら な、じゃねえよ。この歳で男養うなんて親が泣く。お帰りはそちらからどうぞ。素直にいなくなるなら警察にも言わないし、寛大な精神でなかったことにしてあげますから。」

窓を指差して話はここでお仕舞い。今夜のことは悪夢であったと、そうすれば明日からまた何の変哲もない素敵な日常マイライフが戻ってくるんだから。

なるべくしかまるさんを視界にいれないようにして、私は勉強机へ向かう。もう寝れる気もしないし、どうせなら課題をやっつけてしまおう。‥‥一問目からすでに心が折れそうだ、全然わからない。

「上からC D B B A C。」
「おい、帰れっつったでしょう。」
「いいから、答え見てみろよ。」

渋々、本当に渋々裏の解答を見る。

「あってる、」
「楽勝。」

斜め上を見上げると、しかまるさんが楽しそうにニヤリと口角を上げた。

「じゃ、じゃあこれは?」
「√5、な。」
「助動詞完了ぬの活用形!」
「な に ぬ ぬる ぬれ ね。」
「カール=マルテルの子供は!?」
「ピピン。」
「ピピンをご存知なんですか‥‥!?」
「まあな。」
「‥‥、しかまるさん。」
「んだよ。」
「私と、取り引きしましょうか。」


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