※死ネタ


「角都さんは、私が死んだら泣いてくれますか。」

…いきなりトチ狂ったような質問をしてくるそいつに、俺は無言を貫く。
まあまず、普通の人間であれば死んだらどうする?とかいうくだらん質問を、近しい人間なんかにするのかもしれないが…、こいつが、しかもこの俺に、死ねば泣くか?など、やはり考えても頭がおかしい質問だ。何百という人間が日がな一日バタバタ死んでいくこの世界で、俺が泣いているところを1度でも見たことがあるのか。当の本人である俺が言えば、否。

もともとから変な奴だとは思っていた。
何かと自分のあとをひっついてくる、あの飛段よりも数段面倒臭い女。

「死ぬ予定でもあるのか?それは助かるな。」

「角都さんてすぐ意地悪を言う。混ぜっ返さないでくださいよ。だから、角都さんは、わたしが死んだら、」

「それは無い。」

「…無い。私が死んだら、悲しくないですか。」

「お前が死のうと、何も変わらないだろう。」

「そうですか、ほんとにそう思いますか。」

「ああ。」

「それなら、良かった。」

悲しいから泣くのではない、泣くから悲しいのだ、そいつは詠うように言う。ちらりと目線を移すと、楽しそうに笑う顔が映った。

「角都さんが泣くところ、なんて。見たくないですからね。」

俺が金の勘定を終えその場を立つまで、ずっと、ただそうして笑って佇んでいた。



「必要な犠牲だった。」

後ろから声がする。

「これ程殺す必要があったのか?」

「仕様が無い。組織の為だ。」

そう組織の為だと嘯かれ死んでいった奴らは、皆満足そうな顔をしていた。俺からすればその行為は金にもならんーーー、ジャリ、足で引っ掛けた砂利の音。一瞬静止してから俺は数歩後退り、死体の中にあの笑顔を見つけた時。ああ、そういうことかと腑に落ちた。死ぬ予定があったのか。あいつはあれでも馬鹿じゃなかった、そうだな、今まで何でもないことなんて言ったことはなかったか。それを俺は聞かぬふりをしていたのだろうか。

片膝を付き、腕をその体へ回す。

「お前が死のうと、俺は泣かない。」

角都さん、角都さん、角都さん。何度も自分の名を呼んだその口はもうぴくりともしない。ぎゃあぎゃあと話すたびに大仰に動いて鬱陶しかった手は、地面へと垂れたまま。

「名前、俺は泣いたりしない。」

幸せそうなその顔を見て、言う。

「それがお前との約束だからだ。」

いや、

角都さんが泣くところ、見たくないですからね、
名前の唇を上から塞いでも、声は止まない。何重にも響くその聞き慣れてしまった声を、忘れないで、とでも言うのか?生意気だ、本当に面倒臭い女だ。

感情なんてものは表に出さなければ、やがて潰えて何処かへ消える。
けれどお前を忘れることは、


「…ああ、約束なんかじゃない。」
これは呪いだ。
お前にまんまとかけられた。
ああなんて情けない。忘れられないだなんて…。
それこそこの記憶は一銭にもなりはしないのに。
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