今日は朝から名前の様子がおかしかった。

朝飯のとき、いつもなら野菜も食えってうるせえのになァんも言わねえし、俺が任務に出掛けるときは気をつけてね、とか言っちゃって、帰ってきたら次は、今日の夜一緒に過ごしたいなんて、

らしくねえ。


しかしここにきて、その妙ちきりんが更に拍車をかけている。というか、ぶっちぎってやべえぞ、コイツ。

「飛段、プレゼントは私だよ。」

俺の部屋に入ってそうそうこれ。
ついに頭いかれちゃったんじゃねえの?

「はあ?」

「だから、プレゼントは私だよって、2度言わせんな!!」

真っ赤な顔して両手をもじもじさせる名前が不気味でちょっと後退りすると、急にキレた。意味わかんねえよ。

俺がビクついてたら、意味不明な呻き声をあげて床を転がっていた名前はむくりと起き上がる。

「あのさ、もしかして、だけど…」

「な、なんだよ?」

「えっと、飛段、今日は何の日?」

「あ?何の日って、4月の2日?」

なんだなんだ、俺が馬鹿だからおちょくってんのか?生憎、そこまでこの脳味噌も落ちぶれちゃいねえよ。

「違う!!4月の2日は何の日!?」

歯痒そうに俺をびしッ!と指差す名前。

ええと、4月の2日?今日が何の日か?
‥‥‥‥?あーーーと、‥‥あ、

「誕生日だわ。」

「うおおおおっそいわ!」


『飛段なんか、欲しいもの、とか』
『肉食いてえ肉!』
これは数日前の会話。なーるほどなァ。

再度床を転がる夢主。
それにしたって、さっきから何してんだこいつ。
あっ、止まった。疲れたのか?

「要らん恥かいた‥‥。」

「恥って、」

そう思うならやめりゃいいじゃん、口に出しそうになってはたと気づく。こいつが言ってる恥っつーのはいい歳してマヌケに床を転がることじゃなくて、ほらさっきのあれ、

「プレゼントは私だよ=H」

床で伸びていたその物体が一度大きく撥ねたあと丸く縮こまる。

「マジか、」

「や、もーうその発言は撤回したから。」


じりじり、芋虫みたいに部屋のドアを目指して進む名前。ひっ捕まえてベッドへ放った。

「ひぎゃあ、じゃなくて、もっと可愛い声出せよ、名前ちゃん。」

「無茶な‥‥。」

ベッドの端にちっちゃくなってうずくまる名前は、両腕を目の上にのせている。ぐいぐいそれを払いのけようとしても無駄。

「おい、顔見せろって。」

「恥ずかしくて顔から火が出てるので無理です。」

「えっなんだそれ超見たい。」

「うるせえ馬鹿。馬鹿飛段。自分の誕生日くらい覚えとけ。」

ぐす、鼻を啜る音。うわっ、やべえ、泣いてる、こいつ。どうやら俺はまずったようだ。
けどなあ。

「誕生日なんて、必要無えと思ってっから。いちいちくだんねえこと、覚えてらんねえだろ。」

「くだんねえ、って、」

「だってそうだろ?誕生日ってのは歳いっこ増える日。記念日とか、大切な日とか、俺は死なねえ、ンなもん数えて何になるって?」

擦って赤くなった目が俺を映す。
不安げに揺れるそれへ、俺は笑った。


「ま、そう思ってたけどよお、案外捨てたもんじゃねえかなって思ってるぜ。」

「え?」

むんずと名前を再度掴んで、俺があぐらをかいた上に座らせる。うひあ、だった。やっぱ、可愛くはねえのな。


「お前が祝ってくれるなら、忘れないでくれるなら、名前が俺の近くに居てくれるなら、俺は生まれてきてよかったと思ってる。」

「ひだ、」

振り向こうとする名前の頭をごしゃごしゃ撫ぜる。なんだ、恥ずかしいな。柄じゃねえ。でもま、記念だ、記念。たまにはこういうのもいい。さっきの名前の頬と並ぶくらい、赤に染まっているだろう自分の顔。

「ありがとな、名前。」

「誕生日おめでとう、飛段。」

名前は笑って言う。
幸せだ、よかったな、俺。






「プレゼントは私だよっていうのはね、流石にどうかなとは思ったんだけど‥‥サソリさんこれが一番って言うから。」

「あいつの入れ知恵か。ま、でも嬉しかったぜ。」

「喜んで頂きなによりでした。」

「じゃ、痛くしねえようにすっから。」

「!?待て待て待て待て、え、すんの?」

「するに決まってんだろ?そうだ、4月の2日何の日か知ってっか?」

「飛段の誕生日‥‥。」

「今日は本当のことしか言っちゃ駄目な日なんですゥ〜!」

「自分の誕生日は忘れてるくせにそんなことばっかり!」

「そんじゃありがたく、」

「イヤアアアア!!」



2015/04/02
これからも
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