!シカマル結婚してない



「いやね、わかってるんだよ?自分が可愛げの無い女だ、なんてことは重々承知の上だ。でもさ…喜んでくれると、思ってたんだよねえ。」

抱えた膝に回した両腕を握り直す。
隣に座るシカマルが、黙って足を組み直した。

悪いなあ、とは思う。
折角祝いに来てくれたのに、私の給料じゃとても買えない酒まで持って。シカマルだって暇じゃない、いつまでも自分一人の愚痴のために捕まえておくわけにはいかない、そうわかっていてもよく回る舌は止まらない。

「ずっと目指してた、とにかく上忍の字が欲しくて、それをあいつも応援してくれてるもんだと思ってたのに、一緒に頑張ってるんだと、思ってたのに。まあ結局は嫌そうな顔されて、女が、威張ってんじゃねえ、って、俺への当てつけかよ、って。挙げ句の果てには、もっと女らしくしたらどうだ?なんて。ほんと信じらんないわ、何だそれ、女らしくってなんだよふざけんな、抜かされたのなんてそっちが悪いんじゃないの。私だって生半可にやってきた、わけじゃ無い。」

「あー、まあ、そういうもんだよなあ。俺だって中忍1人受かっちまったときには、やっちまったかなって思ったぜ。」

シカマルは苦笑すると、私の頭を二度叩いた。

「ま、お前ェはよくやったよ。特別上忍なんて、そうそうなれるもんじゃねえからな。」

「そりゃどうも。流石偉い人は言うことが違いますことね。」

「おいおい。ぐれんなよ、めんどくせーな。」

シカマルは、こっちを見て少し顔を歪めた。めんどくせー、彼の口癖が刺さる。それは、先程喧嘩して飛び出してきたとき、最後に投げられた言葉と同じ。

泣くんじゃねえよ、


「‥‥ごめん。」

「別に謝らせたかったわけじゃねーから流せ。つーかお前、さっきからひでえ顔だぞ?」

「いつも酷い顔だよ。」

「まあ、そりゃ間違ってねえけど、っと!」

投げたクナイは見事彼の手の中に収まっている。やっぱ、勝てない。シカマルはそれを人差し指でくるくる回す。


「なんつーか、泣きてえなら泣けば?」

「ッ、」


がつん、殴られたかのような衝撃が奔る。
泣きたいのなら泣けば良い、まるでそんなこと何でもないとでもいうように、彼は言った。
だけど、

「泣く女は、めんどくさいって、」

「あ?」

「泣く女は、めんどくさいって言われたから。」

きつく唇を噛み締める。


ずりィよなあ、女はそうやって泣けばそっちが被害者だ、男が泣いたら、だせえ、弱い、情けない、って言う癖に、

自分が被害者だなんて、思いたくない。
そんな存在にはなりたくない。
だって、守られるような人間では、隣に並べないから、



「それは、あー、なんてったっけ?彼氏くんの名前。まあどうでもいいや。つまりそいつに言われたってことか?」

何も言わないで目を逸らす。
シカマルは、溜め息をついた。

ああ、きっと思ってる、
めんどくさいと、可愛いくねえ女だと。


抱えた膝の間に顔を埋める。


シカマルにそう思われることが、辛い。

どうして?



ぱっ、いきなり視界が明るくなった。
シカマルの両腕が自分の背中に回って、掴まれた腕は宙に放り出された。

「!?」

シカマルの顔が、すぐ上にある。
どうやら今、彼に抱かれて居るらしい。

「いいか、名前に泣くなって言うそいつはお前のことを都合良く思っている男だから、確かにそんな男の前ではその男が言うように泣くんじゃねえ。だから、お前は俺を探して泣け。けどよ、泣いてるお前を探すのはめんどくせーからさ、もうずっと俺の側にいろ。満足するまで泣いたらいい。俺は名前を泣かせたりしないけどな。」

きつくきつく、抱きしめられる。
だって私は、そんなこと言われたら、


「優しくしないで、惚れちゃうから。」

驚くほど弱い声が漏れた。
今日初めてちゃんと合わせた顔は、少し眉を下げ、優しく微笑む。

「俺はずっと好きなんだよ。」


ほんとに敵わないなあ、この人には。
でも、隣に並んでもいいのかな。


2015/03/25

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