短編 | ナノ

今日は、入学式。

ここはかの有名な、陸軍士官学校。
元元帥であるミロク理事長が経営し、多くの優秀な軍人を育成し、ホーブルグ要塞に就職させる。位が高い軍人のベグライターになる者も、ここから多く出ている。軍人になる者は、必ずここに行く運命なのだ。
しかも、噂によれば、今年はとてもとても優秀な人材が入学してくるらしい。頭がいいとかそういうのはもちろん、ザイフォンは今までの士官学生の中でもずば抜けて強く、ミロク理事長のお気に入りだとか。それにもう一人も剣の腕が凄いらしくて、ザイフォンを剣とシンクロさせて使うとかなんとか。とりあえず今年の入学生は凄いらしくて、先生達は張り切っているような、不安な面持ちだった。

(私なんかは全然普通の中の普通だから、ついていけなくなったらどうしよう)

男が多い教室で、たった数名の女の中の一人のわたしは、先生のこれからの入学式の流れの話を聞きながら、行く先を案じていた。



がたりとクラスの全員が先生の後に続いて移動する。


「ねえねえ知ってる?噂の優等生って、うちのクラスにいるらしいよ?」

「あっ!それ実はね、優等生だけど、ヴァルスファイルなんだって!」

「ヴァルスファイル?」

「知らないのですか?ヴァルスファイルはフェアローレンの使い魔ですのよ?」


友達になったばかりの数少ない女生徒達との会話中、どこかで聞いた事があるような単語を思い出そうとするが、頭の上にクエスチョンマークが浮かぶばかりだった。

最後にいた私達女生徒は、おしゃべりに夢中になって前が居なくなっている事に気付いて慌てて追いかけた。


(・・・何か落ちてる?)


廊下で見つけた落し物。


(生徒手帳だ。・・・アヤ、ナミ?)


「ナコー!置いてくよ!早く早く!!」

「わっ、ごめん!」


それをポケットにしまって、走り出した。









「疲れたー話長すぎるよー」

「今年は教師陣張り切ってるしねー」

「ミロク理事長なんか超嬉しいでしょ」

「あー、お気に入りってやつ?あれって本当なんだ?」


友達が話しながら廊下を歩く中、私は思い出したようにポケットに手を突っ込む。
しっかりと、生徒手帳が入っていた。


(どうしよう、後で先生に渡そうかな)


「ナコちゃん、元気ないね?気分でも悪い?」

「ううん!ただ考え事してただけだよ」


笑って返せば、これから不安だもんねー、と違う友達が返す。
不安だけど、この友達達なら楽しくやっていけそうだな。


教室の席について、戻ってくる生徒達を眺める。皆はかっこいい男はいないかと女子特有の楽しみ方をしていた。


(あっ!)


一人の銀髪の男子生徒が入ってきたとき、私は思わず声を張り上げそうになった。


(同じクラスだったんだ)


生徒手帳に貼ってあった、証明写真と瓜二つの顔。
確か、アヤナミ君、だっけ?

渡そうと席を立とうとしたとき、先生が入ってきてしまったため、またも機会を逃してしまった。









今日はこれで終わりだと、先生がいなくなってすぐ、あの人は帰ろうとしていた。


「ごめん、私ちょっと用事あるから、先に帰っててもいいよ」


友達にそれだけ言うと、生徒手帳を持ってアヤナミ君を追いかけた。



「あの!」


振り返ったアヤナミ君。そしてその隣には黒髪のサングラスをかけた男子生徒。


「何か用か?」


「アヤたんったら、そんな低い声で言ったら怖がっちゃうでしょ?」

「その名で呼ぶな」

「もう、恥ずかしがり屋さんなんだから。で、どうしたの?君、確か同じクラスだったよね」


同じクラスだということを知っていた事に驚いて少し目を開く。すると黒髪の人は察したのか、女の子は少ないからわかるよ、と教えてくれた。それに女の子はちゃんと把握しとかなくちゃだからねっ星マーク、とも付け加えて。


「あの、これ・・・落ちてました」


大事に持っていたアヤナミ君の生徒手帳を差し出す。


「・・・すまない」

「いえ、たまたま拾ったので」


じゃあ私はこれで、と立ち去ろうとお辞儀をして後ろを振り向いたとき、黒髪の人に肩を掴まれた。


「知ってる?噂」

「?・・・知ってますよ」

「じゃあ、その噂の人物が、アヤたんだってのも、知ってる?」


アヤたん、とは多分アヤナミ君のことなんだろう。でも、何が言いたいのかわからない私はただ頭を傾げた。


「優等生が実はヴァルスファイルだった、っていう噂は聞いた?」

「はい」

「その噂、本当なんだ。もしかしたら今ここで君をヴァルスで操っちゃったりして」


きょとん、とした顔で黒髪の人を見てしまった。ヴァルスファイルについて何も知らない無知な私にとって、それがどんな意味をさすのかわからない。だから、それが怖くて恐ろしいものだということも知らなかった。でも、無知だったことよりも、私は


「そんなこと、アヤナミ君はしませんよ」

「・・・どうして?」

「だって・・・」


彼は冷たい目をしてはいるけど、優しい人なんだと思う。生徒手帳を渡したとき、そう感じた。たった一言で。


「アヤナミ君はきっと、優しい人だからです」

「・・・ふーん?」


口の端を上げて意味深に微笑んだ黒髪の人は、気に入ったよ!と私の肩を両手で掴んだ。


「俺の名前はヒュウガ。よろしくね?」

「あ、私はナコです。よろしくお願いします」



そのままぺこりと頭を下げて、顔を上げたときには、ヒュウガ君よりも向こうにいたアヤナミ君がすぐ傍まで来ていた。


「・・・私はアヤナミだ。よろしく」

「よろしくお願いします。アヤナミ君」

「わーアヤたんが笑ってるところなんて初めて見た!ナコたん凄いよ、あのアヤたんを笑わせたなんて!」

「ヒュウガ・・・」

「わっ、ちょ、折角笑ったところで怒んないでよアヤたん!」

「・・・ナコ、たん?」

「アレ?つっこむところそこなの?」






(闇の者に手を染める)
(光の少女は気付かない)

-----キリトリ-----
いろいろ捏造。恋が始まる3秒前(笑)。

 

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