「んーっふう・・・空気がおいしくて最高ね」
背伸びをして深く深呼吸する。ずっと仕事詰めで要塞に引き篭もっていたからとても気持ちがいい。久しぶりに新鮮な空気を吸えた気がする。
それもこれも、上からのいつもの嫌がらせで。今回の遠征の任務もまた嫌がらせ。それは同盟国に出向き、異常がないか警備してくること。とはいっても、大した事件なんてそうそう起きないし、街中パトロールと通行ゲートの点検くらい。だからちょっと仕事をしただけでもう自由行動も同然で、旅行気分だ。しかも今回の遠征場所はなんと空気も食べ物もおいしくて、景色がよくて、遊べる場所もショッピングできる場所もたっくさんある、あの有名な観光地として選ばれている国なのだ!しかもブラックホークとなると何故か優遇されていいホテルに泊まらせてくれる。上の毎度の嫌がらせにしては気が利いてる。ほんとに好都合。こんないい休暇はない!いや仕事なんだけどね。
「と、私はパトロールという名のショッピングに出向いていたんだけどなあ」
「それはパトロールとは言わぬ」
横で目を光らせ見張っている銀髪の軍人。だが見張っているのは怪しい人物ではない。
「お前も十分怪しい人物だと私は思うが」
「なんであなたがいるのよ!私を見張ってどうするのよ!」
「貴様が真面目にパトロールをしていないと聞いたからな」
どうせヒュウガだろう。私を売って自分だけ楽しんでいるに違いない。ホテルに帰ったらフルボッコにしてやる。
「聞くまでもないくせに」
「わかっているではないか」
アヤナミはいつもそうだ、遠征だと必ず私と行動することが多い。こういうぬるい任務のときは私にくっついてきて邪魔して、戦いを要する任務のときは先陣をきろうと意気込んでもなかなか戦場に出させてくれない。最後まで私の傍にいろとか命令するときもあるし、ほとんど治癒のザイフォンしか活躍させてくれない(ちなみに私は攻撃と治癒のザイフォンを持っている)。どうしてそこまで私の邪魔をするのか全く検討がつかない。
「あ、あの子・・・」
「・・・・・・」
人が多い大通りから少し外れた裏通りに、小さな男の子が地面に座り込んで泣きじゃくっていた。
「ぼく、どうしたの?」
「ふぇ?・・・っうぅ、うわぁぁぁん」
少し顔を上げるとまた俯いて泣きだしてしまった。
「・・・アヤナミ、もうちょっと善人面できないの」
「どういう意味だ」
私はふわりと男の子を抱きしめ、頭を撫でながらとんとん、と背中を優しくたたく。あやすように大丈夫、大丈夫とすると男の子はぎゅっと私にしがみついて泣きじゃくる。泣き止んだのを確認して、再度男の子に声をかけた。
「落ち着いた?」
「うん」
「お母さんとはぐれちゃったの?」
「・・・うん、ふうせんみてたら、ママがいなくなってた」
「そっか。じゃあ一緒にママを捜そっか。大丈夫、すぐ見つかるよ。なんたってここにはすっごく偉くて優しい参謀長官がいるんだから」
「さんぼうちょうかん?」
「そう!ちょちょいと権力を使ったらママなんてすぐ見つけちゃうのよ」
「さんぼうちょうかんはまほうつかいなの?」
「ぶふっ、うん、んふふ、じゃあ行こうか」
男の子の手を握り、さあ行こうと立ち上がると頭を叩かれた。
「勝手なことを言うな」
「でも参謀長官様は魔法使いなんだからそれくらいできるでしょっんふふふふ」
「その気持ち悪い笑い方を止めろ」
でもなんだかんだで捜す手配を整えてくれるアヤナミ。こんなときは頼りになるしかっこいいと認めてもいい。
「おい、お前の母親の特徴は?」
「?」
「ママってどんな人か教えて?例えば髪型とか髪色とか、着ている服の色とか一目でママだってわかるようなもの」
「んんー、かみはぼくとおなじ色だよ。あとおようふくは・・・あのおんなの人みたいなの」
「それだけだと難しいな・・・」
「そうねえ・・・ん?ぼく、その首に下げているのは?」
「これはぼくのたからものだよ!」
男の子の首に下げられていたロケット。もしかしたら母親の写真が入っているかもしれない。
「ぼくのたからもの、みせてほしいな?」
「んー・・・おねえちゃんならみせてもいいよ」
「ありがとう、ぼく」
はい、と渡され中を見ると、それは予想以上だった。中央に男の子が立ち、その横に母親と父親が立った家族写真。微笑ましい写真だ。
「アヤナミ、これ」
「これがあればすぐ見つかるな」
「あのね、これがあるとママすぐに見つけられるの。少しの間借りてもいいかな?」
「そうなの?うん、ママに会えるならいいよ」
写真を使っての捜索からはあっという間だった。アヤナミがちょっと指示をすると写真にそっくりな女性を保護しているという連絡が入り、その女性は男児を探しているという。
「ママにあえるの?」
「そうだよ。ほら、あそこの建物に・・・」
保護している建物まで行くと軍人と母親らしき女性がいた。
それに気付いた男の子はママー!と大きな声で駆けて行った。
「ありがとうございました。この子がいなくなってしまったらどうしようかとっ、」
「よかったですね、今度はちゃんと手を繋いで目を離さないように」
はい、と涙ながらに男の子を抱きしめる母親。少し事情を聞いたところ、父親の墓参りに出向いてきて少し買い物をしていたときにはぐれてしまったそうだ。賑やかな町は慣れていないらしく、母親は地図を見ながらで、男の子は興味があちこちにあって、そうして結果はぐれてしまった。とんだ迷惑な親子だとアヤナミは呆れてたけど、仕事は出来たしアヤナミとあのあと二人で気まずい雰囲気よりはずっといいから結果オーライだ。
見つかったし私たちはこれでと私とアヤナミはまたパトロールに出掛ける。だからなんでまだアヤナミついてくるんだよ。
「おねえちゃん、待って!」
小さな歩幅で一生懸命走ってくる男の子。私の前で立ち止まり、手を握られた。なんとなく反射的にしゃがんで首を傾げると頬にちゅうされた。
「将来ぼくがおねえちゃんをおよめさんにしてあげる!」
一瞬何を言っているのかわからなく固まってしまった。でもあの短時間でこんなに子供に好かれた事実が嬉しくてふふっと笑いが零れた。
「ありがとう。君が大人になったとき私がまだ一人身だったらよろしくね」
ニカッと笑って母親のもとへ走り去ってしまった。母親は男の子を抱きとめると深く会釈をした。
今日はいい1日だったとしみじみしていると、横で一部始終を見ていた彼が動いた。手を掴まれ、強引に連れて行かれる。ちょっとと言っている間に狭い路地裏に入った。ようやく手を離されたと思ったら顔の横に手をついた。もちろん両手を。彼のほうが背が高いため見下ろされているのですごく迫力があって怖い。何か彼を怒らせるようなことをしただろうか、いや私は何もしてないはず。
「私というものがありながら浮気をするとはいい度胸だな」
「え、え?え!?いや私いつあなたとそんな関係に!?」
「時期は関係ない」
「いや関係ないって・・・」
「お前は私がもらう。これであの契りは無効だ」
どうしよう、アヤナミについていけない。急展開過ぎてテンパってきている。
「・・・それってプロポーズ?」
「・・・・・・ああ」
「そこは即効で答えて欲しいところなんだけど」
「愛してる」
「なっ!ずるい!」
「返事は?」
「・・・私でよければ」
「お前でなければ駄目だ」
アヤナミがゆっくり口を近づけてくる。静かに目を瞑ると深く口付けされた。
「だがやはり浮気は関心しないな」
お仕置きが必要だとアヤナミは妖艶に口の端を上げた。
幼い嫉妬心 (たかだか小さな男の子にまで妬かないで!)----キリトリ-----
掲示板にて夜漆さまのネタ(少し子供っぽいアヤナミさま)を使わせていただきました!あと/ツ/イ/ッ/タ/ー/の/萌/え/シ/チ/ュ/b/o/t/も使わせていただきました!
子供に嫉妬しちゃうアヤナミさま!どっちが子供かわからない!そんなのが書きたかった。お題に沿ってないような気もしますがこれでご勘弁を(汗) <<