短編 | ナノ

空は快晴、ぽかぽか陽気。小鳥がさえずり、それはまるで私を誘っているかのよう。こんな日は誰かと出掛けたい気分。それが好きな人なら、彼氏なら、尚更。

でも、私の彼氏兼上司は、いつもいつも仕事で、私と仕事、どっちが大切なの!?と言うつもりはないけど、真面目すぎる働き者だ。
そんな寂しさも、自分も仕事で紛らわしているのだが、今日は何故か早く終わってしまった。やることがなくて、カツラギ大佐の作るスイーツの試作品を食べたり、ヒュウガと意味もない事して遊んだり、コナツをちょっと手伝ってあげたり、クロユリくんの髪を弄って遊んだり、ハルセさんにお勧めのケーキ屋さんを教えて貰ったり、いつもと変わらないけど、暇つぶしになることは全部やった。でも、すぐ飽きた。

ちらりと今は空席である、彼氏兼上司、アヤナミさまの席を見る。彼はつい先程カツラギ大佐と一緒に会議に行ってしまった。

つまらないつまらないつまらない、とぶつぶつ言っていると、煩いとコナツに怒られた。でもその後すぐに、あ、いや違くて、ナコじゃなくて、とか何とか慌てて謝ってきた。どうやら私とヒュウガを間違えたらしい。するとヒュウガが急に私に抱きついてきた。いつもならそのヒュウガをアヤナミさまが鞭で引き離してくれるのだが、生憎彼は不在。


「えーと、何か言いたいことでもあるんですか?」

「えー、言いたい事があるのはナコたんの方じゃない?」


ぐっ、と核心を衝かれ言葉が詰まった。


「見ててバレバレだよー。アヤたんに構ってもらえなくて寂しいんでしょ」

「・・・別に寂しいってわけでは・・・まあ、少し、相手してくれないなあとは思ってますけど、」

「じゃあ俺が手伝ってあげるよ」

「え?」

「とりあえずこの紙に俺がこれから言うこと書いて。はい、ペン」

「???」


わけがわからず、私はヒュウガに言われるがまま手渡されたペンで紙に書き始めた。





久しぶりの街。
平日でも賑やかに活気あふれている街に、私とヒュウガはいた。

紙に書き終えると、ヒュウガは、よし、完璧、とそれをアヤナミさまの机に置いた。私は慌ててそれを取ろうとしたのだが、あっさりヒュウガに腕を掴まれ引き摺られるようにして執務室を出て街に連れて来られた。

そして、今に至る。


「ヒュウガー帰ろうよー。アヤナミさまに怒られちゃうよー」

「えー来たばっかりなのに?本当は出掛けたくてうずうずしてたんじゃないの?」


本当、何でわかるんだ。心でも読まれていたのかな?ヒュウガなら有りえるから怖いよ。


「アヤたんにだって非があるんだし、これくらい反抗してもナコたんに罪はないよ」

「そうかな・・・」

「そうそう、それに言ったでしょ、今日はエイプリルフールだって」

「だからこそだよ!確かに嘘ついてもいい日ではあるけど、アヤナミさまに通じるかな・・・」

「そんなにあの置き手紙が心配?」

「心配で心配で心配だよ」

「あはは、凄い心配ようだね」


でも、とヒュウガは私の手を取って歩き出す。


「とりあえず今は楽しまなきゃ」


にこにこと笑うヒュウガ(いつものことだが)に自然と私まで笑顔になってしまう。ここはヒュウガに甘えて今を満喫してしまおうか。


「あ、あの店可愛いね。見てみる?」

「うん!」


お店の中に入ると、私好みの可愛い小物やアクセサリーなどがたくさん売っていた。こういうお店はアヤナミさまとは一緒にはなかなか来れないから凄く嬉しい。ヒュウガだとなんか違和感ないもんね。あとコナツとクロユリくんでも大丈夫そう。


「わあ、綺麗」

「気に入ったの?」


私がリングを手に持ってガン見していると、店内をぐるぐる見て回っていたヒュウガが隣に戻って来ていた。


「買っちゃおうかなー」

「買っちゃいなよ、それ、アヤたんに似合ってるし」

「なななななななな!!!」

「ん?なんでわかったのかって?そりゃあナコたんは見ててバレバレだからねえ。しいて言うなら、そのリングの装飾の紫の宝石みたいなのとかね」


図星で顔が赤くなった。そんなにわかりやすいかな。どうしよう、そんなこと言われたら買いづらい。でも何かあげたい。でも、


「ナコたんのも買えば?ペアルックとかさ」

「ぺ、ペアルックだと!?」

「口調が可笑しくなってるんだけど大丈夫?」


どうしようペアルックだって、アヤナミさまとペアルックだって!
やっぱり買っちゃおうかな!あ、でもペアルックなんか買ったら余計にバレバレじゃないか!あー・・・でも、


「お買い上げありがとうございましたー」


店員さんの声を聞きながら店を出た。
結局、ペアルックで買ってしまった。もう無理。穴があったら入りたい。いやここに掘って入ろうか。


「次はどこに行こうかー」

「え、まだ行くの!?」

「当たり前じゃん。やるならとことんやりきらないと」


またずるずるとヒュウガに引き摺られ、私は心配しつつも楽しい一日を過ごした。





さて、帰ろうか、というヒュウガの一言で私達はやっと要塞に戻った。しかし執務室の目の前になって、私はヒュウガの腕を引っ張りながら入ることを止めた。
無理無理入るなんて無理だよ!中では鬼の形相をしたアヤナミさまが待っているに違いないもん!そんな死に急ぐまねはごめんだよ!というか、ヒュウガだって幾度の経験を積んでるんだからそれぐらいわかるはずじゃないか!
と心で愚痴っていても、いくら軍人でも女の私が男の力に勝るわけもなく、ヒュウガにぐいっと引っ張られてまた引き摺られて中に入っていった。

もうどうにでもなれ、と受身で引き摺られてると、クロユリくんがおかえりーと言ってくれた。そんな明るい空気に、あれ、アヤナミさまいない?と顔を上げると、いつも通り机で書類を片付けているアヤナミさまがいた。
ヒュウガにアヤナミさまの前で離され、そんな!と助けを求めようとしたら、アヤナミさまに呼ばれた。吃驚して背筋がピンとなる。


「・・・すまなかった」

「・・・え?」


怒られるとビクビクしていたのに、アヤナミさまから出た言葉は謝罪の言葉だった。意味がわからず呆然としていると、アヤナミさまが急に立ち上がって、私の手を掴んで歩き出した。とりあえずされるがまま後ろを歩く。今日は振り回されてばかりな気がする。

何処に行くのだろうと思っていたら、アヤナミさまの部屋だった。
近くのソファに座るよう促され、座るとアヤナミさまも隣に座った。


「これを見た」


そう言って軍服のポケットから取り出した紙には見覚えがあった。ヒュウガに書かされたものだ。

アヤナミさまへ。最近構ってくれないし、私の気持ちもわかってくれないし、仕事ばっかで私のことはほったらかし。本当に私を好きでいてくれてるのかもわかりません。不安なんです。だから、私は今日で彼女を止めたいと思います。勝手かもしれないけど、でも、もうこんな寂しいのは嫌です。
今からヒュウガと二人きりで買い物に行ってきます。

置き手紙の内容。ヒュウガがそれを言っているときは吹き出しそうになった。気持ち悪くて。でもだんだん最後の方になって、どうしてこんなこと書かなくちゃいけないんだと青ざめながら書いていると、私の為だと言われた。

アヤナミさまは私の手を優しく握ってくる。なんだか酷く申し訳ない気持ちだ。どのタイミングで真実を話そうか。


「ナコ、私は確かに仕事ばかりでお前に構ってやれなかった。そこは反省している。だが、お前が文句を言わずにただ傍にいてくれたから、私は変えようとしなかった。お前は、寂しいと感じていたのか?」


どうしよう、ヒュウガが勝手に言ったことだから、私の気持ちではない。確かに寂しくなかったって言ったら嘘だけど。でも、仕事熱心なのは知っているし、アヤナミさまはべたべたいちゃつくようなのは好きじゃないのも知ってる。だから、このままでも、傍にいるだけでも十分だと思っていた。でもどうせなら、このまま勢いに任せて全て吐き出してしまおうか、私の気持ち、全部。


「私は、寂しいとは思ってないよ」

「・・・」

「私は、少しでも、アヤナミに見てもらえたら、少しだけ構ってもらえたら、それで十分だと思ってる」

「・・・ナコ、」

「でも、でもね!アヤナミがもっと構ってくれたら、私は嬉しい」


途端、ぎゅっ、と抱きしめられた。優しく髪を撫でられる。


「この紙の言葉は、ヒュウガがお前に書かせたものだろう?」

「へ?なんで知って・・・」

「コナツとクロユリとハルセから聞いた。だが、半分は本当だったようだな」

「・・・えーと、じゃあ、全部バレていたわけですか」

「ああ。・・・だが、お前がいないと仕事に手がつかなかった」


クロユリくんとハルセさんから聞いた話によると、私がヒュウガと出掛けて行った後、戻ってきたアヤナミさまはそれはもういつものアヤナミさまからは想像出来ないほど、焦っていたらしい。仕事に手が付かず、うろうろ歩いたり、私の机をじっと眺めていたり、ヒュウガの机に八つ当たりしたり、書類も誤字脱字だらけだったり、サインはインクが滲んで綺麗に書けなかったり(いつもは誤字脱字は全く無いし、サインは完璧で抜け目無いのだ)と、本当、普段のアヤナミさまからは有りえない光景だったらしい。
でも、それを聞くのはもう少し先の話。


「あの、こ、これ、今日買ったんだけど・・・」


私は今日買ったペアルックのリングが入った小箱をおずおずと差し出した。
開けていいかと言われ、ぶんぶんと縦に首を振ると、アヤナミさまはラッピングのリボンを綺麗に解いて、蓋を開けた。


「アヤナミに似合うと思って、買ってみたんだけど・・・き、気に入らなかったら捨てていいから!」

「・・・一生大切にする」


フッと目を細めて柔らかく微笑むから、顔が真っ赤になった。その顔はズル過ぎるよ。


「その箱は?」


もう一つの私のリングが入った小箱を問われ、ちょっと恥ずかしかったけれど、箱からリングを出して、指につけた。


「ヒュウガに言われたからつい買っちゃったんだけど、その、ペアルック・・・なんだ。一応」

「・・・ナコがそんなに積極的だったとは、知らなかったな」

「え?」


アヤナミさまは私の手を取って、口元に近づけると、ちゅっ、とリングに口付けた。


「ちょっ!ア、アヤナミ!?」

「少しは私も積極的になるべきだな」


ぐいっとアヤナミさまが覆いかぶさってきて、ソファに倒される。つまりはアヤナミさまに組み敷かれているわけで。
あわわわと顔を真っ赤にさせながら下で慌てふためいていると、頬を撫でられた。


「一応聞いておくが、私の彼女を辞めるつもりか?」

「まさか!あれは嘘に決まってるよ!だって今日は、」






(辞めたいといっても、)
(離さぬ)



恋愛に疎いけどエロオーラは完璧なアヤたんうまうま(゚∀゚)
ちなみに二人きりだと敬語無くす設定


 

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