短編 | ナノ
    


「てるてる坊主ーてる坊主ー、あーした間違ったきょーう天気になりますようにっ!」


せっせせっせと作り上げたてるてる坊主たちが私の机を占領していた。隣で一緒に作っていたクロユリ中佐も自分の机をてるてる坊主でいっぱいにしている。


「ナコ、これだけあれば大丈夫かな!?」

「大丈夫ですよ、クロユリ中佐のてるてる坊主たち効き目ありそうですから」


そう言うと不安げな顔は消え、ぱあっと明るい笑顔を撒き散らせながら、わーい、とハルセさんのもとに駆け寄っててるてる坊主を見せに行った。


「ヒュウガ少佐ーちょっと手伝ってー」

「やっと俺の出番だ!待ちくたびれちゃったよ」

「ナコさん!こんなことしていたらアヤナミ様に怒られますよ!?」

「いいのいいの。今会議行ってていないし鬼の居ぬ間になんとやらってね」

「私がどうかしたか」

「すいまっせんでした大魔王様ああああああああ!!!」

「謝るの早っ!全然さっき言ったことと態度が違うんですけど!」

「いやだってコナツくん、さすがにこれはびびるじゃん。とりあえず謝って・・・ってえ?私別に謝るようなことなんか言ってないし、つーかコナツくんがさっき鬼の居ぬ間になんたらって言ってたじゃん」

「勝手に記憶を捏造させないでください」


コナツくんが冷めた目で見てきた。それと同時に後ろの黒いオーラが増していることに気付いた。やべっ


「説明しろ、何故このようなことになっている。私は会議に行ってくる間今日中の仕事を
早く終わらせておけと言ったはずだが?」

「えーとですね、このような状況になっているのは、全部ヒュウガ少佐のせいです。ってことでヒュウガ少佐このてるてるたちをぶら下げてきてください。仕事は知りません」

「ちょっと待って俺のせいなの!?まあぶら下げてくるけど」

「貴様ら・・・そんなに鞭が好きか」

「遠慮しておきまーす!!!」


ぴゅーという効果音とともにヒュウガ少佐はてるてるたちを抱えて行ってしまった。はっ!しまった、私もどさくさに紛れて行くはずだったのに!
がしっと掴まれた腕。振り返るともう死亡フラグ確定だった。


「許してくださいほんの出来心だったんです」

「ならば今すぐに仕事を終わらせろ」

「それは無理でーす!!!」


掴んでいた腕の力が緩んだ隙にするりと抜け出し逃げた。そりゃもう本気で。後ろなんか振り向いたら確実に殺されるから絶対に振り向かずに走った。執務室から出る時何か聞こえたような気がしたが、聞こえる前に扉が閉まってしまった。

その後その声はアヤナミ様に八つ当たりされたヒュウガ少佐の叫び声だったことを聞くことになる。







長い長い廊下を歩く。肩に重くてカサカサ音がするものを担いで。執務室まで続く長い長い廊下を歩く。周りの目線が凄く痛いが気にしない。慣れてるしね。だが執務室の前で止まった。この扉を開ける緊張感はいつまでたっても慣れない(アヤナミ様を怒らせるのが悪いのだけど)。
どうしようまだ怒ってるかなー?さすがにもう沸点は越えたかなー?もしかしてまた会議に行ってていない・・・かも?
なんて根も葉もない自分の勝手な思い込みでいつもみたいにバーン!と扉を開けてしまった。そしてすぐに扉を閉めようとしたがその前に扉を破壊された。ザイフォンの跡が痛々しく扉と床に刻まれてしまっていた。


「ナコ・・・」

「うわあああああああ!!アヤナミ様こっちこないでえええええええええ!!」


顔に影をつくって鬼のような形相で、待っていたかのように近づいてきたアヤナミ様は、そんじょそこらのホラー映画やホラーゲームより迫力抜群だった。背後に背負った黒いオーラはなんともいえない。もうセーブして一生このデータロードしたくない。


「来い」


そういって手を伸ばしてきたので、反射的に後ろを向いて逃げる体勢に構えたら襟元を掴まれてしまった。ずるずると引きづられ、コナツ君を見てもヒュウガ少佐を見てもクロユリ中佐を見てもハルセさんを見てもカツラギ大佐を見ても、皆私と目を合わそうとはしなかった。


「いたっ」


急に離され、頭を思いっきりぶつけた。摩りながらアヤナミ様を睨もうと顔を上げたら、アヤナミ様の睨みの方がレベルが高かった。
アヤナミ様は無言で自分の膝を軽く叩いた。それを私はしばらく見ていたが、意味がわかって血の気が引いた。


「いや、いやいやいや!」

「・・・・・・」

「いやいやいやいやいやいやい」


引き気味になっていた腰を掴まれ、がくんと視界がぐらついたと思ったらすでにアヤナミ様の膝の上に座っていた。


「ちょ、ははは離しっ」


そこから逃げようとすればお腹に手を回されがっちりホールドされる。そしてアヤナミ様の机にカツラギさんが私の今日のノルマの書類を置いた。こいつら組んでる。


「どういうことですか理解しかねます説明してください」

「貴様への罰だ。これがどういう意味かは言わなくてもわかるな?」

「・・・スミマセンデシタ。セイイッパイガンバリマス」


ガリガリとペンを持って書類に書き出す。でもいつもみたいに上手く字が書けない。書くスピードはなんか心なしか上がっているような気がするけど。ああ書きづらい。居づらい。後ろが怖い。お腹にある手が怖い。後ろからの視線が怖い。前からの視線がむかつく。ヒュウガのやつにやにやしやがって後で殺す。なんて思ってたらすっと左横から腕が伸びてきて、ペンを握って私と同じように書き出した。もちろんそれはアヤナミ様で、後ろを振り向くなんて恐ろしいことは出来ないけど、なんとなく間近でアヤナミ様の手先を見るのは初めてだったからじっと見つめた。綺麗な手だなあ。細くて長い。手袋がよけいにその美しさを際立たせているというか・・・うわ、字も綺麗だし。なのに時間を書けずにすらすら書いて書類を終わらせていくし。・・・なんだかだんだんいらいらしてきた。むかつくくらい清々しく完璧な人だな、全く。私が居て邪魔じゃないのか。仕事しなくても邪魔かもだけどここに居ても邪魔じゃね?むしろこの方が邪魔じゃね?ああ私にだって早くやりたいことが残っ「ぐふあっ!!」


「・・・何、するんですか」

「手が止まっている」

「だからってお腹締めなくても!」

「それが嫌なら手を動かせ」

「・・・・・・」


鬼だ。鬼畜だ。ドS「ぐふうっ」


「・・・手動かしてたじゃないですか!」

「よけいなことも考えるな」

「え、それ心読んぐっ!」

「黙ってやれ」








「終わったー!!」

「・・・・・・」

「終わりましたよアヤナミ様!だから早く離し」

「カツラギ大佐」

「お疲れ様ですナコさん」

「え、ちょ、なんでカツラギ大佐持っていって・・・待って、私が持っていきますからぐふっ」

「静かにしていろ」

「アヤナミ様なんで離してくれないんですか!」

「私がまだ終わっていない」

「いや知らねえよ!私関係ないじゃないですか!私にはまだ使命が!」

「このまま内臓を潰してやってもいいのだが・・・」

「私アヤナミ様のお膝大好き!」

「ならよい」


満足したらしいアヤナミ様は私のお腹に回した腕の力を少し強めてきた。不機嫌にしたら確実にヤラレルぜ!
でも私も本当にやらなくちゃなんだけどなあ。せっかく昼間のてるてる坊主の効き目で晴れたというのに意味がなくなる。というか、今ベランダに出たら見えるんだろうなー。


「ナコさん、心配なさらなくても大丈夫ですよ」

「え?ハルセさん?」

「ナコの分のだよ」


クロユリ中佐に渡されたものは、短冊だった。


「これ・・・」

「終わったー!!」


向こうでコナツ君が涙目で喜んでいる。ヒュウガ少佐は隣で灰になりかけていた。
カツラギさんがティーセットを持ちながら戻ってきた。
トントン、とアヤナミさんが最後の書類を片付け、万年筆を仕舞った。
私だけが取り残されていた。


「え、え?何これどういう状況・・・」

「書かぬのか?」

「え?あ、書きます書きます!」


慌てて短冊にペン先を置く。しかし、思いつかず離した。


「うーん・・・あ、これにしよう!・・・アヤナミ様、こっち見ないでくださいね」


身体を全体的に使って短冊を覆い隠すように、再びペン先を置き、まっさらな短冊にインクをつけていく。書き終えたら胸に書いてある面を当てるようにして隠した。


「ナコ、こっちだよ!」


クロユリ中佐がたたた、と笹があるのだろう場所にかけていく。
念のためアヤナミ様の顔を伺うと、アヤナミ様はちらっと私の方を見るとまた視線をどこかにずらした。きっと行っていいということなのだろう。それにいつの間にかお腹に回されていた手が退けられている。


「クロユリ中佐、待ってください!」


私の短冊はいっちばん高いところにつけてくれた。もちろんハルセさんという名の脚立を使って。


「ナコ、早くベランダに行って見てきなよ」

「私たちはお先に堪能させていただきましたので」

「あ、もう抜け駆け済みだったんですね。じゃあ行ってきます」


ベランダまでそんなに距離があるわけではなかったが、走って行った。
ベランダからは空がよく見えた。一番星から名前の無い星まで全てがくっきり綺麗に夜空に瞬いていた。そしてその中に一番美しく瞬いている星達を発見した。


「あった!天の川!!」


ずーと今まで見たことなんて無かった。いつもいつも見ようと思ったときは雨が降り、晴れのときは寝てしまい、ずっと夢だったのだ。そしてブラックホークの皆でいつか絶対見ようって思ってたんだ。それが今日、叶った。それだけでもう幸せだ。


「そんなにあの星が好きか?」


いつの間にか、隣にアヤナミ様が立っていた。その視線は今は天の川にある。ってこの人なんか天の川睨んでないか。


「うーん、好き嫌いってわけではないんですけど・・・まあ、どっちかといえば好きかもしれないですけど」

「・・・織姫と彦星の話があるが、」

「うわ、アヤナミ様の口から織姫と彦星が出てくるってなんか気持ち悪い」

「そんなに星になりたかったのか?」

「いいえ」


そんな人を殺すような目でこっち睨まないでください。


「お前はそのような恋を望んでいるのか?」


アヤナミ様が恋沙汰の話を持ちかけてくるとは思っていなかった。というか、そんな話は絶対にしないとか勝手に思い込んでいた。・・・これを口に出していたら今度こそ星にされていただろう。


「いや別に憧れってわけでは・・・でも、どれだけ離れていても、ずっと一途に愛し合える、っていうのはちょっと羨ましいとか思います」

「・・・・・・」


え、なんで黙ったの?
言葉の選択肢間違った?肯定すればよかったのかな!?


「なら、今からお前をクビにしても、私に忠誠を誓えるか?」

「無理です」

「・・・即答か」

「そりゃあクビにされたらそうなりますよ、普通。でも、忠誠を誓ったからこそ、私はクビにされようとあなたの傍を離れるつもりはありませんよ」


ニッとしてやったりな顔をした。アヤナミ様はフッと満足げに笑って、私の頭を撫でた。それは忠誠を誓った犬によくやったと褒めるようなもので。それが私は好きだった。


「私はいい部下を持ったようだ」

「こんないい部下他にいませんよ!」

「だが私はいい恋人は持っていないのだが、」

「恋人・・・え?え、え?え?」

「優秀な部下であるお前なら、この意味はわかるな?・・・ナコ」


いきなりの急展開に、ついていけなくなった。








----------キリトリ---------
わたしがついていけてない/(^0^)\
収拾がつかなくなったっていうのはここだけの話。
※あくまで七夕のお話←


 

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