短編 | ナノ

今日は、卒業式。

桜の木は蕾をつけて、でもいつもと変わらないいつもの風景。

教室に入れば、今まで一緒に居たクラスの皆がもう既に揃っていて。
黒板には昨日皆で端までいっぱいいっぱいに描いた落書き。

『3年Z組 銀八先生ありがとう!!』

黒板のど真ん中にカラフルに書かれたその文字を見て、泣きそうになった。


廊下に並んで、長い長い列を最後尾で待つ。ドキドキして手には汗を掻いたりして、友達と笑いながら私達の番が来るのを待つ。

拍手の中、紅白に彩られた体育館に用意されたパイプ椅子に座る。
長い長い校長や来賓の話。そして、私達の卒業証書授与。
一人一人の名前が呼ばれて、代表者が壇上に上がって、受け取る。ただそれだけの行為だけど、その行為には特別で、たくさんの思い出や意味が詰まっている。銀八先生に名前を呼ばれると、泣きそうになった。でも、卒業式では泣かないって決めてたから、泣かない。まだ、泣かない。

拍手で入場。拍手で退場。これで終わりなんだ。皆とは、これで離れ離れ。先生とも、離れ離れ。高校生活が、幕を閉じようとしている。
体育館を出れば、自然と静かになって、教室までの道のりが長いような、短いような。でも、いつもバカ騒ぎで煩い私達のクラスは、怖いくらいに静かで、皆黙っていた。


教室で行われる最後のショートホームルーム。
全員が席について、銀八先生を見る。先生はただ一言、


「卒業おめでとう」


それだけ言った。

それが合図のように、痺れを切らして女子のほとんどは泣き出した。
神楽ちゃんは大泣きして、銀八先生に抱きついて、新八君も、泣くのを我慢して銀八先生にしがみついてて。それを慰めるかのように先生は二人の頭を撫でていた。
さっちゃんも大泣きで、教卓に乗り出しそうになってて、近藤君も大泣きして、妙ちゃんがどうとか叫んでた。その叫ばれてる妙ちゃんは、うっすら目に涙を溜めて、静かに泣く九ちゃんを抱きしめてた。
土方さんは泣きじゃくる近藤さんを見て笑ってて、沖田君は珍しく静かで、近藤さんに肩組みされていて、表情は見えなかった。あれは泣いていたのだろうか。
桂君はエリザベス君とお互いに慰めあってて、たまがオイルみたいなのを目から零していた。それをキャサリンがハンカチで拭いてあげていて。
とにかく皆、皆、それぞれに泣いて、最後の別れを惜しんでいた。


結局最後はバカ騒ぎになっちゃって、でも皆笑顔でさよならが出来た。それにこれからクラス会もある。きっと、皆とはまだこれからも会える。そう思う。

全員が帰っていなくなった教室に、ぼつんと一人、自分の席に座って最後の教室の窓から見えるグラウンドを満喫していた。
時折入ってくる風が、髪をなびかせる。
こうしていると、グラウンドで体育をする生徒達の声が聞こえてきそうで、今にも授業が始まって、先生の声が聞こえてきそうで・・・


「南子」


涙が一筋頬を流れた。

教壇に上がって、気だるげにずれ落ちた眼鏡、少ししわが目立つ白衣を着るよいこの国語と書かれたカモフラージュの本を持つ国語教師――坂田銀八。

先生は、ゆっくりこちらに向かって歩いてきて、私の席の斜め右前で止まると、窓の外を見た。私もそれにつられて顔を向ける。


「早かったです。この3年間」

「そりゃ3年なんてあっという間だろうよ」

「でも、もっと、過ごしたかったなあ」

「人生はこれからだぞー」

「・・・先生と過ごしたかった」

「・・・・・・」


先生に向きなおして、じっと目を見つめる。先生も、私の目をじっと見返してくれる。
もっと一緒に居たかった。この想いを持っている間は。持っていられる間は。でも、もういない。私の行くところには、先生はいなくて、このキモチは、持っていても意味の無いものになる。

なら、いっそ。

ここでこの想いを捨てていってしまおうか。


「先生」

「・・・」

「私、3年間、ずっと、先生のことがっ、」


泣かないって、決めた卒業式。泣くに泣けなくなってしまった、最後のショートホームルーム。
最後の最後に、想いとキモチと一緒に、出てしまった。
声が震える。泣きそうな声になる。もう泣いているけど。
告白って、こんなにも勇気のいる行動だったんだ。告白がすらっとできる女子が羨ましいなあ。

最後の一踏ん張り。
最後の言葉を言えば、


「南子、それ以上は言うな」


目を大きく開いた。

拒否された。

ずっと仕舞い込んでいたキモチは、捨てる事すらいけないの?

目を伏せれば、顔を大きな手で包まれて、
先生は、いつになく真剣な表情をしていた。


「俺に言わせてくれ」


わけがわからなくて、目をぱちくりさせる。
涙はいつ間にか、止まっていた。
それとも、この先の言葉が期待していた言葉だと気付いていたからかもしれない。


「好きだ」


もう一度、瞬きを大きくゆっくりする。
これが夢ではないと確認する。


「俺は、教師としてじゃなくて、一人の男として、南子が好きだ」


涙がまた零れてきたよ。今度の涙はきっと甘いかもしれないね。


「先生、大好き」

「先生じゃなくて、銀八だろ?」

「銀八、大好き」

「ん、」






(捨てたキモチは拾われた)
(これから始まる俺とお前の物語)



 

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