勤務時間も残り僅かになった刻、私はずっと昼間のヒュウガの言葉に悩んでいた。
(やはり少し厳しくしすぎただろうか・・・)
「アヤナミ様」
(そういえばカツラギ大佐が代わりをしていた時に、私のスケジュールはハード過ぎると言っていたな・・・)
「・・・アヤナミ様?」
(ミロク理事長も、よく私についていけていると感心していたな・・・)
「・・・アヤナミ様・・・」
(だがそんなに私の仕事量は多いの「アヤナミ様っ!!」
バン、という音に少し驚きつつその原因に目を向ける。そこには眉を下げて不安げな顔をしているナコがいた。
「大丈夫ですか?さきほどから呼んでいるのに返事をしてくださらないものですから・・・」
「ああ、すまぬ。・・・少し、考え事をしていた」
「・・・考え事、ですか?」
「・・・ナコ、今から付き合え」
「え?ちょちょちょっ、ア、アアアヤナミ様っ!?」
終わっていた書類を片付け、ペンを仕舞って、彼女の腕を掴んで強引に連れ出した。
「ひゅ〜〜アヤたんってば大胆☆」
「ヒュウガ少佐、奇跡的にあと1枚なんですから、早くやってください」
部下達の声を遠くに聞きながら。
「あの、アヤナミ様、いったいどちらへ?」
「・・・」
「私何か失礼なことでも言って・・・「ナコ」・・・はい」
「そこに座れ」
私はナコを自分の部屋に入れて近くのソファに座らせた。
「・・・最近、ずっと寝ていないというのは本当か?」
「えっ?・・・まあ、その、ときどき仮眠を取ったりしていますから大丈夫ですよ?」
「・・・正直に答えてくれないか?」
そっとナコの頬に触れる。優しく撫でて、彼女の目を合わせた。
「・・・アヤナミ様には敵いませんね。おっしゃるとおり、寝てません」
「・・・そうか、」
ナコの苦笑した表情に胸が締め付けられる感覚がした。だがそれよりも、ヒュウガが気付いて、私自身が気付けなかったことが悔しかった。
「すまなかった・・・」
「え!?どど、どうしてアヤナミ様が謝るんですか!?」
「・・・ベグライターのことをわかってこそ上司だ。私はそれが出来なかった」
「・・・そんなことないです。ただでさえアヤナミ様はお忙しいお方なんですから」
「・・・お前は苦しいとは思わぬのか?私自身は、そんなに感じぬのだが、周りの言葉を聞けば、私のスケジュールはハードだと言う。眠れなかったのは、そのせいだろう?」
ナコが座るソファの前に跪きながら、充血して真っ赤に染まっている目を見つめる。目の下に出来た大きな隈を撫でると、ナコの細くて小さな手が重ねられた。
「確かに私もアヤナミ様のスケジュールとか、仕事量は、ハードだと思います。本当に、鬼畜ものですよ。
ふふ、でも、やっぱりアヤナミ様にとってはそうでもないんですね。流石です。そんなアヤナミ様のベグライターになれて、私、光栄なんです。アヤナミ様のためならば、私はどんなに苦しいことも乗り越えられます。だから、そんな、アヤナミ様が苦しそうな顔しないでください」
一言で言えば、驚いた。まさか、彼女がこんなことを思っていたとは思わなかった。私のことをこんなにおもってくれているとは。
そして同時に、私が苦しそうな顔をしているのかと驚いた。鏡で見なければ真実はわからないが、しかしナコが言うのだから本当なのだろう。私はこんなにも、彼女のことを・・・
「ナコ、お前が私のベグライターでよかったと、心から思っている。ここまで優秀なベグライターはどこを探してもお前だけだ」
「そんな、て、照れます・・・よ、」
「・・・そして、こんなにも愛しく思うベグライターはお前だけだ」
「・・・え?」
重ねられたままの彼女の手を取り、手の甲に口付けた。
「ア、アヤナミ様っ、!!」
「ナコを愛している。私のベグライターであることに変わりはないが・・・私の、恋人になって欲しい」
「えっ、えっ!?」
顔を真っ赤にさせて戸惑うナコさえも愛おしく感じる。今まで味わったことのない愛の感情に、私の想いは溢れ出てくる。このまま壊してしまいそうなくらい愛おしい。だが理性がそれを引き止めた。それでも私は自然とナコに熱い視線を注ぐ。
どこからかぷしゅーとでも聞こえてきそうなくらい、ナコはソファに深く沈んだ。倒れるように座った彼女は、真っ赤な顔で、目に涙を浮かべて、恥ずかしそうに微笑んでいた。
「お慕いするアヤナミ様にそんなことを言われたら、私、舞い上がっちゃいます。・・・こんな私で、いいんですか?」
「・・・ふ、愚問だな」
私も小さく微笑み返して、彼女の唇に自分のそれを重ねた。
甘い甘い中毒に侵されて(
でも構って欲しいの)
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アヤたんに愛してるって言わせたかった、が、甘すぐる。
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