バレンタインデー企画 | ナノ
真っ暗な執務室を通り、隣にあるキッチンへと入る。電気をつけて、エプロンをつけると、気合が入った。

「よし、作るか!」

ボウルに鍋、ヘラに氷水にチョコレート。ホイップクリームに字を書くチョコペン。飾りのチョコチップやアーモンドスライス、カラーチョコスプレー。そして忘れてはいけないカツラギ大佐から借りたお菓子の本。
明日はバレンタインデー。今日はカツラギ大佐にみっちりと作り方を教えてもらった。それに加えて皆にはばれないように気を使ってくれて、本当にありがたい。あとでバレンタインの他にカツラギ大佐には俺を差し上げなきゃ。

今は皆仕事が終わって寝ている時間。気配を消してみんなの様子を伺ったら、起きている人は居なかったようだから、大丈夫だ。それでもあまり大きな音を立てれば起きてきてしまうかもしれないから、慎重な作業が必要。まあ大きな音を立てる作業なんてないから大丈夫だとは思うけど。

チョコレートを細かく刻んでボウルに入れて溶かし、溶かしたチョコレートをオーブンシートを敷いたバットの裏側に大の円形で絞り出す。チョコレートの表面にチョコチップやアーモンドスライス、カラーチョコスプレーなど可愛くデコっていき、最後に冷蔵庫で30分〜1時間冷やして固める。カツラギ大佐が言っていたことを思い出しながら、本の通りに進めていく。簡単すぎて見た目もシンプルだけど、私にはこれが精一杯だし、逆に失敗もせずに、シンプルなもので皆が食べれるはず。まあ提案してくれたのはカツラギ大佐だけど。チョコを溶かして順調に進められた私は、ほっと一息つくが、次の工程で手が止まってしまった。…何だろう、テンパリングって。カツラギ大佐はこんな単語言ってたかな?ああ、私にわかりやすいように違う言葉で言ってくれてたんだ。
…………どうしよううううううううううう!!!!!!!!
わからない!!何これ!?というか、その後もなんか知らない単語のってる!?わからない、チョコ溶かして丸く薄く延ばしてその上にデコレーションすればいいだけじゃないの!?簡単と思ったら意外と難しいいいいいいいいいいいいい!!!!助けてカツラギ大佐!!でも、寝ているのに起こすのは申し訳ないし、私一人で出来るってことを証明したいし。

うーん、と他のページに何かヒントがのっていないかと探してページをぱらぱら捲っていると、キッチンの扉が開いた音がした。もしかしてカツラギ大佐!?と振り返ったら、思いがけない人だった。

「こんな時間に何をしている」
「アヤナミさま!?」

どうして起きてるのおおおおおおおおおおおおお!?でも助かったかもしれない!あ、でもいくらなんでもアヤナミさまはお菓子作りの事なんか知らないか。って、アヤナミさまにばれちゃうし!どうしよう、更に困った。

「えーと、ちょっとお腹すいたので夜食でも作ろうかなあ、と」
「…随分と甘そうな夜食だな」
「…甘いもの大好きですから!!」

あははっ、と必死に誤魔化してみるが、アヤナミさまはじっと私を見て真意を探ろうとしている。そんなに見つめないで下さい。さすがに私も爆発しそうです。

「そういえば今日カツラギ大佐と何かしていたな」
「ええ、まあ」
「…なるほど、これを教わっていたのか」
「や、夜食くらい自分で作れないと、女ですからね」

苦笑して下を向く。アヤナミさまああああ!!いつもは振り向いてとか思ってるけど今は帰ってくださいいいいいいい!!!!!

「……夜食…か、」

アヤナミさまはこちらに歩いてくる。これ以上来られたら見られる。どうやって隠そう、

「アヤナミさま!今日はお疲れでしょう!?というか、いつもお疲れだと思いますが…もう就寝時間ですし、お休みになった方がよろしいかと」
「…そうだな」

よかった、これで一件落着。

「ならナコも寝るべきだろう?」
「……」

どうしよう、アヤナミ様が笑っている。口の端を上げて、にやり、という効果音がつきそうな意地悪な笑みだ。アヤナミさまはわかってて言っている。私が帰らない限りアヤナミさまも帰らないつもりだ。でも私も帰れない…。

「えーと、実は、バレンタインのチョコを…」
「そういえば明日だったか。ヒュウガやクロユリが騒いでいたな」
「はは、それが、渡せないかもしれません」
「…何故だ?」

この際アヤナミさまに聞いてみようか、いちかばちで。聞かないよりは、聞いた方がマシだろう。

「アヤナミさま、テンパリングって知っていますか?」
「……ああ」
「えええええええええええええ!?」
「そんなに知りたくないか」
「いえいえ知りたいです。教えてくださいアヤナミさまああ!!」

どうしてアヤナミさまが知っているんだあああああ!!もしかして常識!?もしや、軍人になるには知っておくべき事だったのか!?それとも、アヤナミさまにはそういう趣味が…

「言っておくが私はこのようなものを作る趣味などない」
「……読心術でも使ったんですか、」
「そのようなものを使わなくともお前の心など手に取るようにわかる」

手に汗がにじむ。どうしよう、あんなことやこんなことが実は聞かれていたのか!?ばれていたのか!?

「それで、後は何がわからないのだ」
「え?」
「どうせお前の事だ、カツラギ大佐に教わったもの、単語がわからず作れなくなって困っていたところだろう?」

なんでわかるんですか。アヤナミさまにばればれじゃないですか。チョコあげるどころの話じゃないし。チョコあげる前からばればれだよ。

「おっしゃるとおりです。実はこことこことここがわからなくて…」
「こんなこともわからぬとは、もう少し女としての自覚を持ったらどうだ?」
「アヤナミさまこそ、こんなことを知ってるのはなぜですか」
「聞いた事があっただけだ」

それだけでわかるなんてさすがは我等がアヤナミさまだなあ。そんなとこで関心しちゃ駄目な気がするけど。

「…アヤナミさまって、料理とかするんですか?」
「……料理は使用人に作らせている。だが、出来ないわけではない」

なんてギャップ。アヤナミさまは本当に完璧な人だ。かっこいいなあ。思わず見惚れていると、アヤナミさまと目が合った。直ぐに逸らしてしまったが、失礼だったと後悔した。

「そんなに珍しいか?」
「いえ…羨ましく思っただけですよ」
「羨ましい、だと?」
「私は女の癖に、こんなことも知りません。アヤナミさまは何でも知っていて、仕事も出来て、本当に完璧な人です。それが羨ましくて、憧れます」
「……」

アヤナミさまは素敵な人だ。だからついていくんだ。一生私はアヤナミさまに全てを捧げる。それが出来るのは本望だ。

「…私はお前が羨ましい」
「え?」
「お前は私と違って、いつもその笑顔で人を幸せにする。明るくて、優しくて、暖かい。私には出来ないことだ」
「アヤナミさまがしたら気持ち悪いですものね」
「……」

睨んできたアヤナミさまに微笑みかける。そんなアヤナミさまが愛しいからだ。


「これでいいのか?」
「はい!後は冷蔵庫で冷やすだけです」

アヤナミさまのおかげで無事チョコは完成した。アヤナミさまにもお礼をしなくては。

「あ、そういえば、アヤナミさまはどうしてここに来たんですか?寝ていたのでは?」
「私はずっと起きていたはずだが。執務室から気配がして、キッチンから明かりが漏れていたから様子を見に来たまでだ」
「…そうですか、おかげで助かりました。ありがとうございます」
「……ああ、」

アヤナミさまの手が私の頭に置かれる。そして優しく撫でてくれた。それだけで私は舞い上がりそうなのに、アヤナミさまは顔を近づけて、耳元で囁くから、私の心臓は破裂しそうになった。

「このまま私の部屋に来るか?」
「〜〜っ!!!???!?」
「冗談だ。明日…もう12時を過ぎているな、今日、楽しみにしている」
「はい!」

早く食べてもらいたいな、私とアヤナミさまとで作ったチョコを。あなたは私の想いに気付いてくれるでしょうか?



 ラッピング
 (忘れてたあ!!…そのまま出そう)

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アヤたんが料理とかしてたら萌えるかもって思いました。
参考>>明治製菓:マンディアンの作り方 - 手作りチョコレシピ


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