ぐるぐるぐるぐる、鍋に入った解けてきているチョコレートをかき混ぜる。良い香りが漂って、その度に少し嘗めてしまいたい気分になる。
「が、我慢するんだ。私が食べるために混ぜてるわけじゃないのよ、」
自分に言い聞かせるように独り言を呟いた。
静かな夜。ふわふわした揺れ心地。明かりはこのキッチンだけ。もう少ししたら、買い忘れていた材料を持って、また子ちゃんが戻ってくるだろう。 明日が待ち遠しい。晋助さまは、喜んでくれるだろうか。それとも、馬鹿らしいと貶すのだろうか。晋助さまはあまり甘いものを好まなさそうだから、後者の確率が高いな。……そう思うと、なんで私はこんなに必死になって混ぜてるのだろうと考えてしまった。 駄目だ!別に晋助さまがどう思うと関係ない!私が作りたいから、差し上げたいから一生懸命寝る間も惜しんで混ぜているんだ!別に緊張して眠くはなかったけど。
「愛情込めてかき混ぜなきゃね、」
愛情を込めれば、少しでも、晋助さまに届くような気がした。 がたっと、扉の方から音が聞こえた。また子ちゃんが帰ってきたのかな。
「お帰り、また子ちゃ……」 「…………」
出入り口の扉のところにいたのは、さっきから想っていた晋助さまだった。てっきりまた子ちゃんだとばかり思っていた私は、拍子抜けしてしまった。 だって、晋助さまがいたことも驚いたけど、晋助さまは、扉にぶつかっていたのだから。 居た堪れない空気の中、躊躇いがちに勇気を振り絞って声を出した。
「だ、大丈夫ですか?晋助さま、」 「……ああ、」
彼なりに見栄を張ろうとしているのがばればれである。私は耐え切れず、ぷっ、と笑ってしまった。
「…………」 「す、すいませっ、ぶくく、」 「そんなに面白ェか、」 「だって、いつも抜け目のない晋助さまが、」
晋助さまは無言で私を睨んでいる。でも笑いを止めることは出来ず、やっと落ち着いたところで、質問した。
「どうして晋助さまがここに?小腹でも空きましたか?」 「いや、明かりが点いていたから気になって来たまでだ。まさかてめえだとは思いもしなかったがな」
少し口の端を上げた晋助さまは、機嫌がいいのか(普通は悪くなりそうな気がするのだが)、こちらに来て鍋を覗いた。
「あ、あのっ、これは……」 「明日はバレンタインデーだったな」
驚いた。晋助さまがバレンタインデーという言葉を言うなんて、まして知っていたなんて。
「お前のチョコか?」 「あ、いえ!また子ちゃんと一緒に作ってて、一応鬼兵隊の皆の分なんですけど…」 「お前のその手に持ってる小さい鍋は?」 「あ、こ、これは……」
この小さいのは、先程から混ぜまくっている私の、晋助さまに差し上げるためのチョコ。他の人のより、少し苦めで、甘ったるくない程よい苦さにしてある。かといって苦い、というわけでもない甘さ。
「俺の、か?」 「え!?」
いつの間にか目の前まで来ていた晋助さまにびくっと肩が上がり、目を見開いた。確かめるように深い緑の片方の瞳が細められる。
「……は、い。これは、晋助さまの分で、私から…」 「そうか、良かったのか?俺に言って」 「あ」
渡す前に言っちゃった。渡す前に言っちゃったよおおお!!!何してんの!?意味ないじゃん!私の馬鹿あああああああ。
「くくっ、大丈夫だ。完成品を楽しみに待っててやる」 「ほ、本当ですか!?待っててやるって…う、受け取ってくださるんですか!?」 「俺が受け取らねェと思ったか?」 「晋助さまは、こういうのは、お好きではないかと」 「…いや、祭りごとは大好きだぜ。だが、お前がいればもっと楽しくなるだろうな」
にやりと笑った晋助さまを見て、顔が熱くなった。私、絶対真っ赤だ。 思わず下を向くと、晋助さまの手が顎にそえられた。顔を上げられ、晋助さまの顔がいつもよりも近くにあった。
「し、晋助さま!?」
顔が近づいてきて、耳元に息が当たる。そして低い声が、そっと囁いた。
「とびきり美味いチョコを待ってる」
そのまま晋助さまは去っていった。 私はしばらく惚けていた。
愛情 (この想いが、伝わるように)
--------------- 久しぶりの高杉夢ww
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