今日はバレンタインデーとやらで、学校は大騒ぎだった。関係の無い私は面白おかしくそれを妙ちゃんと神楽ちゃんで眺めていたけど、私のクラスの男子がそれに捲き込まれているため持ち物検査などをされる破目になった。うちのクラスの男子は馬鹿が多いけど、モテる男子が多い。ルックスは良いらしいのだ。例えば、坂田とか、土方とか沖田とか高杉。あとヅラや坂本あたりもモテるらしい。神威くんも近寄ったら殺すよオーラを出していたからあげれた人は居なかったが(多分)、モテるらしい。特に坂田と土方と沖田はダントツでチョコを貰ってた。休み時間が終わる度に他のクラスの女子達が来て、きゃーきゃーきゃーきゃー騒いでいた。 ……よくわからない。馬鹿なのに、あいつらの何処がいいんだろうか。
ホワイトデー大変だなーとか、どうやってお返しするんだろうとか小さな疑問を考えていると、ガタッと窓が開いた。
「どうした、難しい顔して。もしかして俺がちょーモテててたの見て惚れちゃったとか?」
……よくわからない。不法侵入者なのに、こいつの何処がいいんだろうか。
私は窓を閉めておくのを忘れていた過去の自分に悔やむと、部屋を出て行こうとドアノブに手をかけた。
「ちょ、待て待て!ほら、チョコ持ってきてやったから!」
その言葉に反応して、ドアノブから手を離し、不法侵入者に近づいて紙袋の中を覗く。確かにチョコが入っていた。今日たくさんの女子から貰ったチョコを。
「不法侵入で警察呼ぶぞ、紙袋を置いてさっさと帰れ」
棒読みでそう言うと、ムッとした不法侵入者は、帰ろうと窓に足をかける。
「じゃあこのチョコはやらねえ。これは俺のチョコだ。俺を不法侵入者にしねえっつーなら考えてみてもいいけど?」 「すみませんでした!!お客様と呼びますからチョコを分けてください!!」
慌ててお客様に縋り付いて目を潤せれば、仕方ねえなと思い止まってくれた。そうさせたのは私であるが。
どさっとチョコの入った紙袋を逆さまにして、二人で物色していく。
「本当たくさんあるなあ。…なんか、私良心が痛む」 「今さらだろ。何年俺のチョコ食い続けてると思ってんだよ。それに比べお前からは一個も無いし」 「それは!」
私はもう何年もこの不法侵入者であり、お客様であるこいつ、…坂田からチョコを貰って食べていた。誘ってきたのは坂田も方だ。それに悪ノリしたのが間違いだった。家が隣同士の私達はこうしてバレンタインになると毎年恒例チョコパーティーを開くのだ。
「私のなんかあったって変わんないでしょ。坂田はちょーモテるらしいからね」 「……お前いつからだっけ。俺の名前呼ばなくなったの」 「え、…中学くらいの頃かな?」
私と坂田は幼なじみ。小学校から一緒で、仲良く遊んだりして帰ったりしてたけど、中学になると、思春期とかややこしいものが邪魔して、男と女ってことを認識されたのだ。付き合ってるの?とかよく言われるようになって、一緒に帰るのも冷かしが増えて、だんだん恥ずかしくなってきた私の方から、坂田を避けるようになっていった。それ以来銀時と呼んでいたのを勘違いされないため坂田と呼ぶようになり、なるべく学校でも関わらないようにした。 ただ、家では勝手に坂田が入ってきて絡まれるのだけど。でもそれが、少し嬉しかったりして、他人の目を気にしなくていいことは楽だと心の底から思った。
「中学の頃からだよねー。坂田がぐんぐん女子に人気出てきたのって。頭は残念になっちゃったみたいだけど」 「おい、それどっちの意味だ」 「りょうほー」 「……でも確かに中学の頃からだよなー、お前が極端に俺の事避けだしたのって」 「……別に、家では会ってたじゃん」 「だからだよ、学校で避けられるから家に押しかけてたの」
坂田はもしかして心配してくれていたんだろうか。失礼なことをしてしまっていたのかもしれない。でも仕方ないことだったし。こうするしかなかった。
「なあ、こんなのももう終いにしねえ?」 「こんなのって?」 「…………」
坂田は一つチョコを箱から取り出し、一欠けら口に入れると、急に私の腕を掴んで押し倒してきた。そして、有りえない事に、私の唇には坂田のそれが重なっている。目を見開いて何も出来ないでいる私に、坂田は隙間から舌を滑り込ませてきた。口の中に甘い味が広がる。
「ん…はっ、やめ、…銀、時!!」
どん、と銀時の胸板を押して突き放した。 はあはあと息が乱れる。銀時は濡れた自分の唇を舐めて、じっとこっちを見つめたまま。
「名前、呼んでくれたな」 「そ、そんなこと言ってる場合じゃっ」 「俺はさ、今までどんだけたくさんのチョコ貰ったって、たった一人のチョコしか嬉しくないわけよ。ずっと待ってみたけど、もう待ちくたびれたわ。いきなりは悪かったって思ってる。でも…俺は、ずっと、お前の事が好きだった」
初めて聞いた銀時の本心。初めて見た銀時の真剣な眼差し。 銀時がモテる理由がやっとわかったかもしれない。いつの間にか、こんなにも変わってたんだね。私だけが、一人逃げていたんだ。無意識に好きという気持ちを恐れて、これ以上苦しまないように近寄らないようにして。でも毎日家に来てくれるのが、嬉しくて、嬉しくて。
「銀時の馬鹿ああああああ!!!」 「ええ!?ん?…南子、泣いてんのか?ちょ、ごごごめん!!俺が悪かった!」
私が大泣きし始めると銀時は慌てふためいてどうしようと顔を青ざめている。それが可笑しくてもっと涙が出てきた。
これは一生渡せないかと思ってたけど、今、やっと渡せる。
本命チョコ (私も、好きだった)
--------------- 学生坂田!捏造モノですよ。
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