「ハッピーバレンタイン!!」
ナコは小さなラッピング袋を5つ、それぞれに手渡した。
「ありがとうございます」 「わーい、ナコからのチョコだよ、ハルセ!!」 「そうですね、クロユリ様。ナコさん、ありがとうございます」 「ねえねえこれもしかして手作り!?」 「昨日一生懸命作ったかいがありましたね」
上からコナツ、クロユリ、ハルセ、ヒュウガ、カツラギが嬉しそうにナコからのチョコを受け取っている。 ナコはそれを確認すると、私の目の前まで来て、少し恥ずかしそうにしながら後ろに隠していた箱を差し出した。それは先程配っていたものと違い、正方形の少し大きめの箱。
「あ、アヤナミ様、受け取っていただけますか?」
私は無言でそれを受け取る。綺麗に飾られた箱のふたを開けると、確実に一流のシェフが作ったような美味しそうな生チョコが並んでいた。……手作りではないのか。
「ビターチョコにしてあります!甘いものとかは、苦手かと思って…」 「何故私と他のものでわけたのだ?」 「え?」
困惑した表情でおどおどし始める彼女に、少しずつ苛立ちが増す。何故私だけは手作りでなかったのか。それはつまり、義理チョコだと強調しているのだろう。
「だって、アヤナミ様には既にたくさんのチョコがあるでしょう?私のチョコなんて、その中のたった一つですし、」
今日の朝から無理やり贈られてきたチョコのプレゼントの山を見る。毎年迷惑な事に、ブラックホーク宛と書かれた小包が届かれる。私だけではない、ヒュウガやコナツ、クロユリにハルセ、カツラギ宛へのチョコもある。それはチョコだけでなく、色々なものがあるのだが、中には嫌がらせや毒を盛るなどの危険なものまである。その中のたった一つのナコからのチョコは一番安心なものということでもあるのだ。
「あれは全部お前にやる」 「ええ!?いや、いくら私でも、それは……」 「嫌ならヒュウガにでもやれ」 「アヤたんったら太っ腹☆」 「ヒュウガ少佐にあげるんだったら私が食べます!!」
いきなり大声を出したナコに驚いた。不機嫌そうに何かをぶつぶつと言っている。
「じゃあ、これもいりませんよね」
しゅん、と落ち込んだ様子のナコは私の手にあるチョコを取り上げようとした。どうやら勘違いをしているらしい。
「これはお前でもやらぬ。私が貰ったのだ」 「でも、いらないって…」 「それはあっちの、だ」
一つ生チョコを摘まんで口に運んだ。すると、ナコは目を見開いてこちらを凝視していた。……何がおかしいというのだ。
「なんで、」 「それはこちらの台詞だ。何故そのような顔をする」 「アヤナミさまが、私のチョコだけは食べて下さったからです…」 「出来るのなら手作りの方を食べたかったのだがな」
また大きく目を見開くナコ。今度は他の者までも驚きの表情でこちらを見ていた。
「アヤたんったら、素直じゃないんだから」 「本当ですね」 「何?どういうこと?」 「色々あるんですよ、クロユリ様」 「それなら私達のをアヤナミ様にあげましょうか」
ヒュウガとカツラギとハルセには気付かれているのだろう。クロユリとコナツは気付いていないようだが。そして、ナコも、
コナツが手作りだというナコから貰ったチョコを私の前に差し出す。それを見た瞬間、ザイフォンが飛んできて、チョコは一瞬のうちに消えてしまった。ナコの方を見ると、顔を真っ赤にさせながら手を前に出していた。
「え……」
コナツが青ざめてナコを見ている。他の者も、私でさえもナコの行為に驚愕した。
「だ、駄目です!私の手作りは、へたくそで見た目も悪いし、味も食感も悪いし、アヤナミ様は、駄目なんです」 「ナコ、」 「アヤナミ様に贈られてくるチョコは全部高級なチョコとか、一流有名シェフが作ったチョコとか、手作りだって、それに負けないくらい見た目が良くて美味しいチョコだから、私なんかの下手くそな手作りチョコはあげられないんです!!」
勘違いしていたのは、どうやら私の方だったらしい。 私は手作りの方を貰えなかったことで、てっきり義理なのだろうと思っていた。どうして私だけが他の者と違うのか、わからなかった。 気を使ってか、今までいた部下達は出て行っていた。今この執務室には、私とナコだけである。
「手作りではないのに、これは本命…ということか?」
席を立ち、ナコの前まで行き、頬に手をそえる。 ナコは一瞬びくっとして、ゆっくり顔を上げた。背の違いから、自然と上目遣いになっている。それが愛しくて、目を細めた。
「手作りだからといって、本命とは限りませんよ?」 「……それもそうだ」
自嘲気味に笑うと、ナコも微笑む。
「アヤナミ様、ハッピーバレンタイン」
遠慮がちに、指で摘まんで口元に出されたチョコを、ナコの手を掴み、食べた。 恥ずかしそうに顔を赤らめ微笑む彼女に、そっと唇を合わせた。
義理チョコ (お返しは何をしようか)
--------------- アヤナミ様視点は凄く難しい。
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