迷惑な幼なじみだった。……でも、
06::戻れない現実
静まり返る道場内。私はアヤナミ先輩をただじっと見ていた。
アヤナミ先輩は、一瞬、驚いて目を開いたけど(周りから見ればわからないくらい小さな表現だけど)、すぐにその目は細められ、眉を寄せた。
どうしてこんなにも苦しくて悲しいんだろう・・・?なんて、わかってるくせに知らないふりして。
胸がズキズキと痛む。
違う、こんなこと言いたかったんじゃない。こんなこと、本当は言いたくなかったんだ。
本当は・・・・・・、
いつからだろう、呼び捨てを止めたのは。
幼稚園から一緒の私たちは、いつも一緒にいることが普通で、私とアヤナミ先輩は二人で一つというか、(例えが悪いが)カレールーとライスでカレーライスなんだみたいな感じだった。
でもそれは中学1年くらいまでの話。
中学1年のとき、思春期であるこの頃は、お互いが、周りが、男女というものを意識するようになった。
女子達からの妬みの嫌がらせも、その時から始まったと思う。
よく、付き合っているの?とか言われたり、幼なじみという権利を利用してる魔性の女だとか根も葉も無い噂もあった。
全然噂とか当て嵌まらないのだが、私には言い返せる理由がなく、ただ黙っているしかなかった。だって私はアヤナミ先輩しか頼れる人がいなくて、クラスの中に友達と言える人がいなかったから。
でも、私とアヤナミ先輩の関係が大きく変わった事件があった。
その時だ、呼び捨てをやめたのは。
その時からだ、恋を自覚したのは。
今まで一緒にいたのが嘘のように、私はアヤナミ先輩と一緒にいなくなった。
次第に友達も出来て、噂もなくなって、私の人生は平和で平凡な日常へと変化した。
そのうち、アヤナミ先輩の存在は知られていても、私の存在は知られなくなった。
そう、二人で一つみたいな見方はされなくなった。
それが悲しいと思ったことはある。寂しいと感じることもあった。
でも、学校では一緒にいなくても、アヤナミ先輩は家によく来てくれたり、呼んでくれたり、たくさんたくさんかまってくれた。今までどおりだと言ってくれているように。
アヤナミ先輩の紹介でヒュウガ先輩とも仲良くなって、アヤナミ先輩の家でよく遊んでくれた。ヒュウガ先輩は本当にいい人で(性格は悪いけど)、お兄ちゃんみたいに接してくれた。
だからこそ今の私があって、あの時私はこの恋を諦めずにすんだんだ。でも、もしかしたら、あの時諦めたほうが良かったんじゃないかって、思ったりもしたんだよ。
受験の時だって、諦めるために違う高校を選ぼうとしていた(レベルが高いってこともあったけど)。それでもアヤナミ先輩は私を離してはくれなかった。
親が言ったことだけど、どうしてもアヤナミ先輩のせいだと考えてしまう。
私はまだアヤナミ先輩を好きでいていいのかと考えてしまう。
そうやって、はっきりしない霧の中、不安定な道をおぼつかない足取りで歩いてきた。
でもね、
本当はね、
あの頃に戻りたい、
なんてね、
思ってるんだ。
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