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「ん・・・」
いつの間に寝てしまっていたのだろう、馬車の窓から見える景色はすっかり夜景に変わっていた。そして馬車は静かに止まっている。アヤナミさんがいない・・・。
置いていかれた!?
慌てて身体を起こすと、パサッと何かが落ちた。
「アヤナミさんの上着だ」
いつもはこんな優しさを味わうことなんかアヤナミさんに限って無いから余計に目頭が熱くなった。でも上着をかけるくらいなら起こしてくれればいいんじゃないかと思ったところで、馬車の扉が開いた。
「お嬢様、アヤナミ様がお呼びです。御仕度を」
召使いらしき人がそう言って扉の前でスタンバっていた。羨ましいとか思っていたが、実際やられるとすごく恥ずかしいことが判明した。
「ありがとうございます」
馬車を出た先には、豪邸があった。レッドカーペットが敷かれていて、多くの貴族らしき人達がその上を歩いていた。しかしどこかで見覚えのある屋敷。
「ナコ」
隣から声をかけられ振り向く。
「・・・どちら様でしょうか?」
スラッとした長身の男。仮面をつけていて、社交服を身に纏ったその男は、周りの女性が騒ぐような外見だった。実際騒いでいたけど。
「っふ、私がわからぬのか?ベグライターともあろう者が」
「えっ、嘘、まさか・・・」
仮面を外した男は、恐れ多くもつい先ほどまで一緒にいたアヤナミ参謀だった。
だって社交服って!仮面って!もう鼻血吹き出しても吐血してもおかしくないんじゃないかな!むしろそっちが正常なんじゃないかな!
私がアヤナミさんの美しさにうろたえていると、手が差し出された。
「お手をどうぞ」
「はい!」
声が裏返った。そして大きな声を出してしまった。
「ックク・・・」
隣で私の手を引いて歩くアヤナミさんが笑っている。もう帰りたい。
「あの・・・ここには何をしに?」
「いずれわかる」
「いや、私は今知りた「ナコたーん!」っ!?!?」
どっかで聞いたことがあるような声と呼び名で誰だかわかったと思ったのもつかの間、彼の姿を見てまたうろたえた。
ここに輸血パックと献血車が必要だ。
「ひゅ、ヒュウガ少佐・・・ですよね?」
「何で疑問系?」
「ヒュウガ少佐には見えない!」
「ちょ、それどういう意味」
ヒュウガで気づかなかったが、近くに他のブラックホークの面々もいた。もちろん全員社交服で。ここが天国か・・・。
「ナコ可愛い!すっごく綺麗だよ!!」
「あ、ありがとうございますクロユリ中佐」
照れるなあ、こんな可愛い子に言われると。
「ほんとに美しいですね、さすがアヤナミ様が見立てただけあって、もともとお綺麗でいらしたのがもっとお綺麗ですよ」
「そんなに誉めたってもう実験の協力なんかしませんよ、カツラギ大佐」
「ナコもこれをつけろ」
アヤナミさんに渡された仮面。どうやら仮面をつけることで参加できるようになっているようだ。よく見れば屋敷に入っていく人はみんな仮面をつけている。
アヤナミさんに手を引かれて、私たちも屋敷の中へ入っていった。
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