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「どうしてこんなことに・・・?」
私は今あのアヤナミ参謀長官と一緒に、馬車の中で重い空気を味わっていた。
任務終了後、オーク元帥から実績を称えられ、私は立派な軍人として認められた。多くの部署から私に是非来て欲しいというオファーがあったが、もちろん全てお断りした。オーク元帥から何度も本当にそれでいいのか、と聞かれたが、私はアヤナミ参謀のベグライターとして働くことにした。まあそれは形だけのもので、アヤナミさんは私がベグライターになったあともお茶入れくらいで、簡単な仕事しか頼んでこない。任務はあの大きな事件以来、任されないどころか、任務の言葉すら聞かれなくなった。確かに、任務は向いていないと言ったのは自分だけど、頼りにされていないという感じがして、それに前よりアヤナミさんとの会話も減ってしまって、寂しいと感じていた。
それがどうしたものか、なぜか今日の朝いきなり、出掛けると言って、私の腕を引いてそのまま馬車に乗り、今に至るのだ。
最近全然話してなかったからよけいに居心地が悪い。アヤナミさんも私を連れ出したわりには窓から外の景色を見てばっかで、どこに行くとも教えてくれない。
何を話せばいいのかわからない、そう思ったとき、私ってアヤナミさんのこと知ってるようで何にも知らないんだと、改めて思った。
なんでまだ私を世話してくれているのか、とか。
「ナコ、」
「え、あっ、すいません!」
「?・・・何故謝る」
「あ、いえ。気にしないでください」
アヤナミさんのことを考えていて聞こえなかったなんて、言えるわけがない。
「え・・・ここ、どこ・・・ですか?」
考えて気付かなかったが、到着した場所はなんとなく高級な雰囲気を出しているお店であった。ショーガラスにあるマネキンと服を見たところ、ここは洋服屋だろうか・・・?
アヤナミさんが躊躇わずに入っていくので、私もそれに遅れないようについていく。
「(なんだ、洋服の買い物に付き合わされただけか・・・)」
何かを期待していたわけではないが、少し緊張の糸がほぐれた。
店の中はシンプルで、しかし高級感を出していて、アヤナミさんの好みそうな店だと思った。
アヤナミさんは店の奥に行き、店の人と思われる綺麗な女性と話をすると、私を手招きした。
「どうしたんですか、アヤナミさって、え?え?」
アヤナミさんの隣まで行くと、にこやかな笑顔の女性二人に両腕を拘束された。
そしてそのままひきづられるようにしてもっと店の奥へと連れて行かれた。
アヤナミさんの無表情が逆に私を安心させた。
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