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「ナコ=ジユウに初任務を命ずる」
アヤナミさんの目の前に立ち、命令を聞く。とはいえやる気はないので真剣には聞いていないが。
「うわあなんか生粋の日本人にその呼び方は違和感ありまくりですねえ」
「確かに変だね」
「・・・ナコさん・・・」
あからさまに嫌な顔をした私に同情してくれるコナツさんにヒュウガ少佐。他の人たちも心配そうにこちらを伺っているのが後ろを見なくてもわかった。
初任務。私はその命令を聞いているところである。だが少し待って欲しい。私はアヤナミさんのベグライターだけど、ただのお飾りなだけで、任務はさせないから安心しろ的なことを言って私を軍人にしたのはなんだったのか。
不安とすごくやりたくない気持ちが表情に出て顔が引きつる。
「アヤナミさん・・・」
「・・・オーク元帥からの指名での命令だ。断ることはいくら私だろうと出来ぬ」
「アヤナミ参謀なら下克上くらい出来ると思います!」
「・・・上司の命令は絶対だ。やれ」
「嫌です」
アヤナミさんが溜め息を吐いた。吐きたいのはこっちだ。
「・・・別に一人でやれと言っているわけではないだろう?」
「やりたくないんです。卒業試験でさえ仕方なくだったんです。もう嫌ですよ」
「・・・・・・」
戦いとか面倒なことはもうまっぴらだよ。私は平和主義者だから争いはしたくないし、女の子だもの、喧嘩はおろか、暴力なんてもってのほかだよ。そんな少年漫画みたいなことがあってたまりますか。
「わかった。やるかやらないかは別として、任務内容だけは聞け」
「・・・・・・はい」
「他の者も一度集合して聞いてくれ」
アヤナミさんの一声ですぐに全員アヤナミさんの前に一列に並ぶ。緊迫した雰囲気が身体を強張らせる。いつもと違うみんなの顔つきが、違う次元の人たちなんだなって思った。
「今回の任務は、軍が世話になっている貴族の令嬢を一日警備することだ」
「警備ってことは、誰かに狙われてるとか?」
ヒュウガ少佐が軽い口調でアヤナミさんに問いかける。
「ああ。昨夜、何者かから誘拐の犯行予告が届いたらしい」
「その貴族って確か上級貴族で軍に資金を大量に出してるって話だよね」
「軍としては失敗したら大切な金の出所を失い、他の貴族にも影響が出かねない・・・といったところですかね」
クロユリ中佐の話にカツラギ大佐が付け足した。
「それってつまり責任重大じゃないですかああああ!!!!!」
「それほど期待されているということですよきっと」
ハルセさんが宥めてくれるが、ここで折れては跡で後悔する絶対。
「これでもまだやらないと言い続けるなら、こちらも手段を選ばせてもらおう」
いや、これでもって、さらにやりたくなくなっただけだよね?と心の中でツッコミを入れた。
「え、アヤたんまさかナコたんに拷問でもさせるつもりじゃ、」
さあっと血の気が引いた。顔が青ざめる。アヤナミさんならやりかねない。すっと懐に手を伸ばしている。きっと鞭だ。それとももっと恐ろしい拷問器具でも出すんじゃ・・・と思ったが、アヤナミさんが懐から取り出したのは、携帯だった。間違いなく私の携帯だ。
「お前がやらないというなら、」
バキッと携帯が真っ二つに折れた。いや、正確には折られた。そのまま地面に落とされて、足で踏みつけられ、携帯はさらにひどい様になってしまった。
「あ、アヤナミさん・・・なんて、ことを」
僅かな希望でメモリーカードを調べてみたが、落とした衝撃と踏まれた衝撃で傷ができていた。たぶん、これはもう使えない。
この中には私の愛する坂田の画像がたくさん入っていたというのに!!!みんなとの思い出が保存されていたというのに!!!
涙が出そうになって、怒りをアヤナミさんにぶつけようとして顔をあげると、アヤナミさんは先ほど壊したはずの私の携帯を持っていた。
「あ・・・れ?」
拍子抜けして涙がぽろりと零れる。
「・・・先ほどのは偽者だ。こっちが本物だ」
「アヤナミさん・・・!」
無事だったことへのあまりのうれしさにさっきの怒りと悲しさはどこかにいってしまった。
でも携帯を取ろうとした手は宙をきる。
「これが欲しければ、任務を引き受けろ。先ほどのような思いはしたくないだろう?」
「・・・この、鬼畜!!ドS!!外道!!」
「それが貴様の答えか、よかろ「やらせていただきます!是非やらせてください!」・・・」
アヤナミさんはそっと折ろうとしていた手を離し、携帯を私に返してくれた。
よかった!携帯が無事生還した!
「ナコってそれのことになると目の色変わるよねー」
「それほどに大切なものだということですよ、クロユリ様」
「それにしても、珍しかったですね。アヤナミ様がナコさんに対してあんなことするなんて」
「可愛い子には旅をさせよってことだよ、コナツ」
「しかしいくら力を持っているナコさんでも、初任務にこの依頼は荷が重いのでは?」
カツラギ大佐がアヤナミさんに問うと、アヤナミさんは私を一度見て言った。
「それなら心配ない。手は考えてある」
怪しげに口角を上げるアヤナミさん。すこしそれにときめきいている私は、この後大変な目に合うことは思いもしなかった。
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