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「うわあああああああああああああ」
どたどたどたどたとリズム感無く徐々に早まる足音が執務室に近づいていった。叫び声とともに。
がちゃりと開けたら、こっちを見た瞬間みんな固まっていた。一人を除いて。そして私はその一人のもとに全速力で駆け寄り、ひたすらその人の体を手で殴った。いや、正確には叩いたといった方が正しい。音で表すならぽこぽこ、といったところだ。
「カツラギ大佐の嘘つきいいいい!!」
「どうやら効いたみたいですね」
「やっぱりあなたでしたか!もう本当やめてください!これ私元に戻れるんですよね!?」
「大丈夫ですよ。どれくらいで戻るかはわかりませんが・・・ちゃんと元には戻れますから」
「ううっ。それならいいんですけど・・・」
涙目になりつつ床を見た。いつもより近い床。小さい足、小さい手。
私は幼くなっていた。
「ねえ、もしかしてこれ、ナコたん・・・なの?」
「ええっ!?」
「わあーかわいいナコ!」
「幼い頃はこんなに可愛らしかったんですね」
ヒュウガ少佐にコナツさん、クロユリ中佐にハルセさんが私とカツラギ大佐のところに集まってきて、私を観察してくる。
私はあまり気分はよろしくなく、全然面白くないしつまらない。どうせならみんなが幼児化すりゃよかったのに。そしたらこんなイケメン集団だから盛り上がったに違いないのに。どうして私を幼児化させたんだ。どうして私を幼児化させたんだ。(大切なことなので2回言いました)
「ナコ!髪可愛くしてあげる!」
「え、クロユリ中佐?」
「早く、ここに座って」
言われるままに近くの椅子に座る。後ろに回ったクロユリ中佐が私の髪をいじりだした。
いつもなら一番身長が低いクロユリ中佐だが、今は私よりも高い。だから私が椅子に座ってちょうどよい高さになっている。んー複雑な心情だ。
「一体、どうしたらこんなことに・・・」
「ピンクの液体を飲めばこうなりますよコナツさん」
さあっと青ざめて正直な反応を示したコナツさんはかわいかった。そうだよコナツさんが幼児化したらさぞかわいかったろうに。今から飲ませようか。
「出来た!どう?可愛いでしょ?」
「うわあ可愛い!器用なんですね、私ちょっと感動しました!」
女の子らしい髪型で、リボンなどで飾りをつけられている。こんな私でもちょっと嬉しくてにやにやしてしまう。私だって一応女の子ですから。
「ナコたんナコたん、こっちおいで」
「?」
ヒュウガ少佐に手招きされて近づいた。すると、いきなり足が床から離れ、身体が宙に浮かんだ。びっくりしてヒュウガ少佐にしがみつくと、抱っこされた。そのまま膝の上に座らされる。そして後ろからぎゅーと抱きしめられた。
「ヒュ、ヒュ、ヒュウガ少佐!?」
ぐはあああ!!ほっぺをすりすりすんな無駄に綺麗な顔とか実はちょっとかっこよかったりとか、っていうか肌すべすべで羨ましいな畜生!ああもう理性が、理性がもたないよ!何なんだこのおいしいシチュエーションは!?初めてカツラギ大佐グッジョブとか思っちゃったよ!ちくしょう大佐GJ!!
「ちっちゃいナコたん可愛い!!俺このままなら仕事出来る気がする。あ、でもやっぱ無理かも・・・いやでも今なら出来そうな気がする」
「なら仕事してください」
「やだなあコナツ。今は手が離せないから無理だよ」
「は、離してくださいいいいいいい!!(理性が限界を超えるうううう)」
「だめだめ、あんまり暴れると落ちちゃうよ?」
「落ちる方がまだマシです!」
「そんなに俺と一緒にいるのが嫌なんだ、ふーん、じゃあナコたんのことどうしよっかなー?」
「すすすすいませんでした私ヒュウガ少佐と一緒にいるの嬉しいですとっても!!」
殺される殺される殺される!!
サングラスの下が怖い。抱きしめてくる力がさっきより明らかに強いし痛いよ。というかなんか近いし、耳元で低い声でそんなこと囁かないで欲しいよ!ムラムrっごほん。
「ヒュウガ少佐、ナコさんをからかって遊ばないでください。ナコさんがかわいそうです」
「コナツはナコたんには優しいよねー。もしかして何か特別な意味があったりして?」
「ななな何もないですよそんな!」
「そうやってすぐ否定したりどもったりするのは怪しいよ?」
「黙れよサングラス」
「え、ちょ、今の誰!?ナコたんコナツが怖いよ」
「むらむらむらむらむら」
「村?コナツうう!ナコたんが壊れちゃったよ!」
「それよりも、あとどれくらいでナコさんは元に戻るんですか?」
「そうですねえ・・・私も成功例は初めてですからなんとも・・・」
うえ!?カツラギさん私に今まで失敗続きだったものを飲ませたの!?しかもその言い方だと動物実験みたいな試しをやってなかったってこと!?どうしよう私今日で死ぬかもしれない。
「まあしばらくして薬が切れれば元に戻るでしょう」
他人事ですね、あなたが原因だというのに。
心で毒づいていても仕方がない。この姿を満喫しよう。ポジティブに生きるんだ!それしかない。それにこの姿も悪くないよね、皆に甘えていられる年頃だし、一番楽に生きていられる年代だと思う。
「でもアヤナミ様に見られたら私たち怒られませんか?」
「アヤたんは大丈夫でしょ。むしろ喜んでくれると思うよ」
「どこにそんな根拠が!」
「ん、俺の勘」
「大丈夫だよコナツ!ヒュウガの勘は当たらないけど、アヤナミ様ならきっとどんなナコも受け入れてくれるに違いないよ!」
「クロユリ中佐が言うなら大丈夫かもしれませんね」
「ちょっと二人とも俺の扱い酷くない!?」
わいわい騒いでいれば、がちゃりと執務室のドアが開かれた。入ってきたのは今話題に上がっていた張本人。
フラグ回収早いです。
「アヤたんおかえり〜」
「アヤナミ様おかえりなさい!」
「・・・?」
「(ヒュ、ヒュウガ少佐!アヤナミ様が物凄く疑いの目でこちらを見ているのですが!!)」
「(大丈夫だって、クロたんが何とかしてくれるよ)」
クロユリがアヤナミの前に出る。大きな目をきらきら輝かせながら。
「アヤナミ様!」
「どうしたクロユリ」
「ナコがちっちゃくなっちゃいました!」
「普通に直球じゃないですか!」
「え、どうしたのコナツ?」
「いや、もう少しオブラートに・・・もういいです」
クロユリ中佐に腕を引かれてアヤナミさんの前に出される。ちっちゃくなったとクロユリ中佐が言うのと同時に手を掴まれてバンザイされた。え、やだこれ地味に恥ずかしい。
それにしても、いつも高いと思ってたけど、今回は○○タワーを見上げるくらい高い。そして、怖さが倍増されている。顔蒼白くて影出来ててすごいホラー。
「・・・この子供は何だ」
「ナコたんだよ、アヤたん」
「・・・・・・」
アヤナミさんがこちらを見ている。クロユリ中佐が楽しそうに喋っている。ヒュウガ少佐が床で屍になっている。コナツさんがヒュウガ少佐に薬草をかけている。ハルセさんが・・・ああ、駄目だ。周りの状況を把握しようと頭を動かしていたら、眠くなってきて・・・
「!?」
目を擦ってうとうとしていた私に気付いたアヤナミさんがすかさず倒れる前に受け止めてくれた。何度アヤナミさんに倒れそうになって受け止めてもらったか、デジャヴどころではないだろう。でもそれが少し嬉しいなんて思ったりして、でも眠くて、言葉にするのは億劫だから、アヤナミさんにぎゅっとしがみついて体で表現した。伝わったかわからないけど。
「んー・・・?」
目が覚めるとアヤナミさんの腕の中にいた。アヤナミさんのベッドでもある。なぜならここは彼の部屋だからだ。どうしてこんなことに?
うわ、アヤナミさん睫毛長い。肌白いなあ。この筋が通った高い鼻とか羨ましい。一緒にいると慣れちゃうけど、綺麗な顔立ちしてるんだよなあ、アヤナミさん。仕事も出来るし、性格もい・・・くはないけど、まあ、黙ってればいけると思う。さぞモテるんだろうな。バレンタインとかちょっと気になる。ここにはそういう風習はないのかな?・・・アヤナミさんにとって私ってどう映ってるんだろうなあ。
「あ、れ?私、手がいつも見ていた大きさに・・・戻った?も、戻ったんだ!」
がばっと起き上がって、体中を触りまくる。うん、いつもの私。小さくない!薬が切れたんだ!・・・?ちょっとまった、私今体触ったときなんか肌色が多かったような・・・
「んわあああああああああああ!!」
裸、だ!
服小さいサイズの着ていたから破けちゃったんだ。隠そうとベッドの中にまたもそもそと潜る。今度は顔がぎりぎり出るくらいまですっぽりと。
「寒いのか?」
「うわああああああ!?」
「・・・煩い、何度も大声を出すな」
「え、あ、すいません。ビックリしまして・・・えっとー・・・ちょっと非常事態でして・・・」
「非常事態だと?・・・そういえば、体は大丈夫なのか?」
「あ、無事元に戻りました」
「そうか、ならいい。・・・なるほど、そういうことか」
「え?」
「すぐに着替えを持ってこさせる。そこでじっとしていろ」
すごい、あれだけでわかってくれたんだ。なんか一人慌ててた自分が恥ずかしい。冷静なアヤナミさんにガッカリしてたりする自分もいるし、なんだこれ。ため息くらいついてもいいよね。
「ナコ、」
「はい?」
「・・・今度からは怪しいものは飲むな」
「あーなんとか努力します」
「飲むな」
「は、はい」
命令形でしたかすいません。思わず冷や汗かいちゃった。
でも私もこんなことはこれっきりにしてもらいたい。
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