TWIN | ナノ
65/66

「・・・ん、う?」


目が覚めると見知らぬところにいた。だけど何故か懐かしいと感じる。
日本じゃないような気がするし、私の記憶じゃないということは、アダムの記憶なんだろうか?

そこはとても綺麗な場所で、たくさんの白い花で溢れていた。


「私、今とっても幸せだわ!」

「何かいいことでもあったのか?」


声が聞こえた。森の方からイヴとフェアローレンが二人並んで歩いていた。
それはとても幸せそうで、彼が彼女を殺したなんてことが嘘のように。


「私にとってイヴは全てだった」

「!?」


急に後ろから声を掛けられ身構える。それがアダムだとわかると、私は警戒を解いた。解いていい人物かどうかはわからなかったけれど、少なくとも今は彼が何か攻撃しようというような雰囲気を出していなかったから。


「アダムさんは、イヴさんのこと・・・」

「ああ、愛していたよ。彼女には気持ちを伝えるまでもなく振られてしまったけどね」

「え、それって」

「ああ、彼女が死んだからとかじゃない。フェアローレンに出会ってからの彼女を見ていたらわかるだろう?言える訳もなかったさ」

「・・・」

「本当はただ一緒にいて過ごしているだけでよかったんだ。創造主からは恋愛の感情は与えてもらえなかったからね」

「え?ええ!?で、でもさっきイヴさんのことが好きだって、」

「ああ、もちろん。・・・君の世界でもあっただろう?禁断の果実が」

「あ・・・それを、食べたんですか?」

「もっとも、私の場合は気づかないうちにだったんだけどね」

「ええと、どういうことですか?」

「イヴが迷子になった土地で拾ってきた果実を、美味しそうだからって二人でわけて食べたんだ。その後イヴがフェアローレンに聞いたら禁断の果実だったって知ってね。天界の長も呆れて、とりあえずその森を立ち入り禁止にしたぐらいで済まされたんだ」

「・・・笑っていいんですかね?」

「ははっ、いいよ、笑ってくれ」

「あはは・・・」

「・・・結局は、私が臆病だっただけなんだ」


アダムさんは遠くにいる二人を暖かい目で見つめながらそう呟いた。


「恋愛感情を知った後も、何もせず、ただいつまでもこの時間が続けばいいと思って何もしなかった。それがまさかあんな形で終わるとは、天界の長も、世界の英知を統べるフェアローレンでさえ、誰も想像できなかっただろうね」

「・・・アヤナミさ・・・フェアローレンを憎んでいますか?」


少し緊張してたどたどしく問うと、アダムさんは意外にも笑っていた。


「ちょっとだけ」

「えっ」


あんなに敵意丸出しで、すぐにも殺しそうな雰囲気でアヤナミさんと対峙していたのは私の勘違いだったのだろうか?いや、夢とかじゃない。確かにあれは現実だった。
私に気を使っているとか、?


「本当にちょっとだけ・・・ですか?」

「うん。イヴを殺したのが本当に彼ならそれは許しがたいよ。でも彼がイヴを殺したなんて信じられないんだ。だってイヴがあんなに好きだった彼なんだからさ」

「ええ!?だってだって、貴方はアヤナミさんのこと殺そうとして・・・」

「まああれは一言あいつに言ってやりたかったからね、天界では散々あいつに遠慮して気を使わせてやったからさ。ただ・・・憎いのは、イヴを探せるのは彼だけってところかな」

「?」

「イヴは確かに死んだ。もうどこにもいないさ。でも私はイヴがまだどこかにいる気がしてならないんだ。私も所詮あいつと同じだよ。もし私があいつだったら同じだっただろうね。だけどあいつにしかできなくて、私にはできないんだ。それがどうしようもなく憎い。それだけさ」


まあ要するに、嫉妬してるだけなんだけどねと笑って彼は遠くを見つめた。

私はアダムさんのことを勘違いしていたみたいだ。アダムさんに意識を乗っ取られてた時、この人が怖いと思った。アヤナミさんの敵で、私の敵にもなるんじゃないかって思ってた。
でもいざ話を聞いたらどうだろうか、全く違うではないか。どうしてアダムさんはアヤナミさんにあんなことを言ったんだろう?本人は天界での仕返しって言ってるけど、本当にそうなのかな?まあ私にはそれ以外に答えなんかわからないんだけど。

それと、アダムさんと私は似ているような気がした。
臆病者。
私もそうだ。何も言えずに、何も出来ずに、いや、何もしないんだ。ただこの時間が幸せで、進みたくない。ずっとこのままでいればいいのにって。・・・ずっとこのままでいることなんて出来ないのに。


「アダムさんは凄いです。私だったらフェアローレンのこと嫌いになっちゃいます。頭ではわかっていても」

「・・・そんなことはない、君と僕は似てる。君もきっと同じような立場なら僕と同じことをしていたし、僕だって本当は嫌ってるんだよ?でもあいつは悪いやつじゃないし友達だからね」


笑顔で返してくれるアダムさんを見て何故かずっと会っていない家族を思い出した。ああ、こんなお兄ちゃんがいたらよかったのに。


「アダムさんにこんなこと言うのは変ですけど・・・」

「言ってごらん。大丈夫、アヤナミのことでも私は怒らないよ」

「・・・私、アヤナミさんに想いを伝えられて、その場で答えを出すことが出来ませんでした。自分がこの世界の人間じゃないとか、アヤナミさんにふさわしくないとか、私は他に結ばれもしない好きな人がいるからとか、色んな言い訳をして、逃げました。でもそんなことはどうでもよくて、ただ私もアヤナミさんが好きならそれでいいんだって、ついさっき気づいたばかりなんです。」

「なら、返事をしてあげなさい。貴方は私と違って、まだ言える機会もあるんだから」

「あ・・・」


アダムさんは機会すら与えられないまま、気づいたときには手遅れだったということだろうか?


「さあて、もう時間だね。そろそろ行かなくちゃ」


いつの間にか幻影のイヴもフェアローレンもいなくなっていた。


「最後に1つだけ聞いてもいいですか?」

「なんですか?」

「どうして私だったんですか?」

「・・・都合が良かったから。素質もあって、馬鹿っぽくて正直でフェアローレンを騙せそうだったから」

「なんか複雑なんですが・・・」

「あはは、・・・それに、貴女はイヴにどこか似ていたんでしょうね。一目ぼれの魂でしたし」

「え?い、いまさら褒めても何にもなりませんよ!」

「・・・私も転生時は憎しみの業火にとり憑かれていました・・・でも、貴女の心に触れて憎しみなんてすっ飛んで、以前の私を取り戻せました。今更ではありますけど、ありがとう」

「お礼を言うなら私もです。私をこの世界に連れてきてくれてありがとうございました。おかげで私、本当に好きな人ができました。ありがとう、アダムさん」

「私の分まで幸せになってくださいね。いつまでも、見守っています」


光の泡がアダムさんを包んでいく。存在は薄くなり、きらきらとあたり一面に咲いていた白い花、エデンの花が舞い上がって、彼とともに空へ消えていった。

そして私も、眠るように意識が無くなった。











目が覚めると、見知らぬ白い天井があった。
周りには白いお花(でもエデンの花ではなかった)があって、どうやらベッドで寝ていたらしい。

(さっきのは夢だったのかな)

コンコン、とノックの後に扉が開いて誰かが入ってきた。


「やっぱり、目が覚めたんだね」

「お腹が空いているだろうと思って、暖かいスープとパンを持ってきましたから、食べて下さいね」


女の人のように可愛らしい容姿の司教様と、眼鏡を掛けた格好良い司教様だった。

思わずぐきゅるると腹の音がなる。


「ふふ、たくさんありますからどんどんおかわりしてください」

「すみません・・・」


たらふく食事をご馳走になって、二人は予想通り聞いてきた。


「貴女は、アダムの転生・・・ですね?」

「・・・はい。でももう彼はいません」

「もしかしてと思ったよ。問題は解決したのかな?」

「・・・はい。おかげですっきりしました」


二人がアダムがもういないことをわかっていたのは意外だったけど、彼らが特別な司教様だと聞いたので納得した。


「君はこれからどうしたい?」

「・・・アヤナミさんのところに帰りたいです」


会って、たくさん言ってやろう、好きだと。


「本当の世界には帰りたくありませんか?」

「えっ・・・」

「もしかしたら、私たちの力でなんとかできるかもしれません」

「アダムはもういないけど、でも君は確かにアダムの転生だったんだ。ううん、君の魂はアダムと同じ。君がフェアローレンであるアヤナミと居てもらっては困るんだ」

「なんでですか?今まではずっと居たのに」

「今までは私たちが気付かなかったうえに、何も起こらなかったので大丈夫でしたが・・・でも彼につくということは、貴女も同罪になるということですよ?」

「もし彼が僕たちと対峙するときがあったら、僕たちは君を殺さなければいけない。そして君の魂は地獄行きになるかもしれないんだ」

「・・・でもアヤナミ様やブラックホークのみんなも一緒でしょう?」

「・・・もしもの話で言えば」

「なら、いいです。私はみんなのところに帰ります。まあ簡単に死にはしませんけど」

「・・・そんなことだろうと思っていました。ごめんなさいね、これも仕事のうちなので」



そういってカストルさんが手をかざすと私はそのまま気を失った。










*前 次#



<<とっぷ
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -